「何故こんなことをした」

 小野は机に並べられた自らの失態を握り潰し、床に投げ捨てる。

「……だって。だってずるいじゃないか! なんの努力もせずに先生に贔屓されて生徒会長に選ばれるなんて。……そんなの許せないだろ!」
「何の努力もしてない? 毎日一緒に生徒会の仕事をしていてわからなかったのか。柊霧子は誠実に仕事に取り組んでいただろ」

 光輝と香が小野の調査をしている間、柊は生徒会活動をおろそかにしている様は一切なかった。あいさつ運動にも遅れていたわけじゃない。生徒会のあいさつ運動の開始時間は朝の七時四十分から八時までの二十分間。柊は時間通りに来ていただけで、小野の登校時間が早いだけだった。

「……で、でも! 僕は聞いたんだ。金森先生が柊に選挙に当選させてやるって言っていたところを」

 数週間前。小野は生徒会室に向かうと中で金森と柊が話していた。小野が耳を澄ませると「君が次の生徒会長になれば教育長である君のお父さんもさぞ喜ばれるだろう」と囁く金森の声と「はい」と呟く柊の声が聴こえた。

「あぁ、柊本人から聞いたよ。だからやめさせた」
「え」
「お前のためじゃない。彼女のためだ」


 生徒の投票は体育館で行われ、開票は生徒会実行委員の生徒たちが空き教室で行う。実行委員の生徒は投票が済んだ学年の投票箱から順番に運び、空き教室にいる生徒会顧問である金森へその箱を渡す。

「はい、確かに受け取りました」

 実行委員の生徒が次の投票箱を運ぶために教室をさると、金森は鍵を使って投票箱を開け、中の投票用紙をゴミ袋にふるい入れる。そしてあらかじめ隠していた柊霧子の欄に丸が書かれた偽物の投票用紙を投票箱に入れようとすると、一瞬強い光が金森の視界を潰した。
 眩んだ目をこすり、顔を上げるとそこにはカメラを構えた伽耶響と安達光輝の姿があった。

「冬木の情報は本当だったんだね、これは取引した甲斐があったよ。超スクープじゃん!」
「なんだお前ら! そのカメラを渡せ!」

 金森は響のカメラめがけて手を伸ばすが光輝はその腕を掴み、ひねり上げて足をかけて転ばせる。 ぐへぇ、と情けない金森の声が地面から聞こえる。

「いいね安達君、私と組まない?」