その後すぐにいじめは A によるフェイクだと学校新聞で報じ、嘘をつき居場所も信頼も失ったAは転校したがBは心に傷をおい、今も学校には登校できていない。

 それ以来、冬木は新聞づくりから離れ、「正しさ」に強くこだわるようになり、スキャンダラスな記事ばかりを扱うようになった。
 今でも響は誰ともコンビを組まず、一人で勝手に新聞を発行している。

 「それが巷で噂の『裏学校新聞』だよ」

 香は胸がざわついた。

 今まで香は裏学校新聞を記事の内容の正しさは二の次に、面白おかしく読んで、友人同士で笑っていた。きっと自分のような無自覚な読者の存在が響をエスカレートさせていったのだろう。

 それに冬木が「正しさ」にこだわる理由は自らが過去に「正しくない」ことをしてしまったための後悔と懺悔だったと知り、香は一つの考えが浮かんだ。

 きっと、冬木も正しさなんてわかっていない。

 だけど自分の中に無理やり「正しさ」を作り、それに反しないように生きている。

『俺たちは、正しくないといけないんだ』

『いいか。誰かを傷つける正しさなんて、正しさとは言えないんだよ』

 これまで冬木に言われてきた言葉を思い出すと、それはまるで冬木が冬木自身に言っているようにも聞こえる。
 冬木は正しさという呪いを自らにかけているように思えた。

 正しさって、一体……。

 目の前でともに間違った元相方、伽耶響が口を開くたびに冬木の顔は怒りや後悔を帯び、苦虫を噛み潰したように歪んでいく。

「冬木ちゃん」
「……わかってる」

 光輝の呼びかけに答えると冬木は胸の中で逆巻く怒りを鎮めるように深く息を吐き、短く息を吸う。するといつものように無愛想で冷静な冬木の顔に戻った。

「校内にタバコの吸い殻が落ちていた。お前なら知っているだろ」
「あぁ知ってるよ。て?も、冬木もすでに知っているんじゃないの?」

 響の煽るような口調に対し、冬木は冷静に応える。

「憶測の域を超えない。確固たる証拠が欲しい」
「タダってわけにはいかないなぁ?」
「わかってる。取引だ」

 空き教室、もとい伽耶響専用の部室から出ると沈みかけの西日が廊下を真っ赤に染めていた。

「明日の選挙どうなるかねー」
「微力だが、校閲部としてできる限りの事はしよう」

 冬木の言葉を聞き、香はぽつりと呟く。