放課後。
「冬木が呼んでたよ」と光輝に言われ新聞部の部室前へ訪れるとすでに二人の姿があった。やっぱり怒られるのか、と気が重たくするが香は覚悟を決め、冬木が喋り出す前に思い切り頭を下げる。

「昨日はごめんなさい!」

 恐る恐る顔を上げると、冬木はいつも通りの仏頂面のままだった。

「目上の人にはすみませんでした、だ」
「うっわ、嫌なやつ」

 光輝がわざと大きな声でつぶやき、香も心の中で同じことをぼやいた。

「そもそもなんでこいつを呼んだんだ?」
「えー別にいいじゃん」

 冬木に責められ、そっぽを向く光輝。
 
 香は「あれ? 冬木先輩が私を呼んだんじゃないの?」と目線で光輝に問いかけるがウインクで返された。もちろん意味はわからなかった。

 はぁ、とため息をついた冬木に「来い」と言われ、冬木は新聞部の部室のではなく、隣の空き教室の扉をいきなり開く。

 天井の蛍光灯はついておらず、奥の壁についた窓にかかるブラインドの隙間から刺す西日が部屋を薄い赤色に染める。
 普通の教室の半分程度の広さだが、四方を囲む壁にはびっしりと紙が貼られていた。よく見るとそれらは盗み撮りのような拡大ズームした写真やメモが殴り書きされた原稿たち。それに全校生徒の名簿や教職員名簿などなぜここにあるのかもわからない清開高校に関するあらゆる資料の切り抜きなどが貼られており、より一層狭い印象を与える。

「いきなりなんだ、ノックぐらいしろよ」

 窓の下には資料が山のように積まれた汚い机があり、その向こうから女性の声が聞こえた。細い手が目の前に積まれた資料の山を無造作になぎ払い、バタバタと物が落ちる音ともに埃が舞い、西日に反射してキラキラと輝く。

 椅子に座る女子生徒、伽耶響は「おぉー」と抑揚のない声を出す。

「おぉ、驚いた。元相方がわざわざ出向いてくるなんて。私とよりを戻す気になったのかな?」?
「ふさ?けんな」

 いつもより三割り増しで冬木の声は刺々しい。しかしそんなことよりも冬木と目の前の響との会話の中に気になる言葉がいくつも出てきた。

「元相方? よりを戻す?」

 香の声に反応し、響は首を伸ばす。

「君は一年三組の彩田香さんだね。校閲部期待の新入部員。やっぱり私の新聞がいい広告になっただろ」
「なんで私の名前……っていうか、私校閲部に入った訳じゃ」