それは新聞部が毎日発行している学校新聞だった。普段はもっとロジカルで、言ってしまえば面白みのない学校新聞だが、たまにゴシップ紙のようなド派手な色使いとタイトル詐欺まがいの文言で埋め尽くされた通称『裏学校新聞』が発行され、その度に校内をざわつかせていた。

 掲示板に貼られた裏学校新聞の記事の内容を読んでも、その非公式・非公認・期間限定の部活について、校内に部室はなく、男子生徒三名が所属している部活、と言うことしか記されておらす活動内容はおろか名前すら書かれていなかった。

 やっぱり怪しすぎ……。

 もはや都市伝説というか、オカルトチックなその記事を読み終えるとさっきまで平気で歩いていた放課後の廊下がなんだか不気味に思えてきて、香は早歩きで学校を出た。

 活気のない清開商店街を歩く高校生はどれだけ見回しても私しかいなかった。放課後はみんな部活動をしているし、部活に所属してない人でも隣町の大型のショッピングモールに行ってフードコートで駄弁っている。つい最近まで香自身もそうだった。
 つまり、なんの予定もなく一人、暇を持て余す私のような残念な人間はこの町にいないということだ。

 香は自分でも、この無気力さがコンプレックスだった。

 優花みたいにアニメに夢中になったり、自分のやりたいことに熱中できる人が羨ましい。そのことを相談するとみんな決まって、まだ出会ってないだけだよ、と言った。
 本当にこの世に私が情熱を注げるものがあるのか。探そうにもそもそもそれがなんなのか自分でもわかっていないから探せない。
 だから結局何もしない。

 堂々巡り。無限ループ。……というか言い訳?

 一人の下校は余計なことを考えてしまう。だから誰かと一緒に帰りたいのに。
 気がつけば長く深いため息をついていた。半分抜けかけた魂を鼻から吸い込むと独特な苦味と甘みの混じった匂いが鼻腔をくすぐった。

 これは、コーヒー?

 香は鼻をつんと上に向け、香ばしい匂いの元をたどる。いつもの通学路を外れた先、角を何度か曲がると一軒のログハウスを見つけた。シルバニアファミリーのような明かりの灯る可愛らしい見た目だが、入り口の扉の横には、古そうな木造の看板に渋い筆文字で「喫茶・朝日館」と掘られている。

 喉も渇いたし、ちょうどいいや。