香と光輝が宇治充の実家である喫茶・朝日館の扉に手をかけると、内側から扉が開き、柊霧子が出てきた。二人は突然現れた柊に背筋を伸ばして固まるが、柊は二人を見ても少しも驚いた素ぶりを見せず、 ふんと顔をそらして店を後にした。
 香と光輝は同時に振り返り、柊が見えなくなるとまた同時に多大の顔を見合い、同じ角度で首をかしげた。

「なんで柊がいたの?」

 店内に入ると席に座った冬木が原稿の確認をしており、隣の満は参ったなーと嬉しそうに膨らんだお腹をなんども摩る。

「対抗馬からも依頼されちゃったよ。校閲部がみんなの役に立つのは嬉しいことだね。とは言っても小野くんが柊さんにもうちに校閲してもらうことを勧めたんだって。よかったね冬木くん」
「そうですね。これで選挙の公正さが保たれます」
「あ!!!」

 突然光輝は叫び、隣に立つ香は驚いて耳をふさぐ。

「びっくりした……、なんですか急に?」

 すると長く息を吐きながら光輝の顔がほころんでいく。

「はぁー……スッキリしたー」
「だから何が?」
「違和感だよ。取材初めて今日で三日。その間小野と柊は一度も言葉を交わしてなかったのに、今日は帰り際に何か話してた。そこが気になってたんだな、俺。なんだー校閲部のこと話してたのか」

 ニヤニヤと笑いながらご満悦な様子でなんども頷く。
 そんな光輝を怪訝な顔で見つめる香に、満はこれは校閲部にとって当たり前の光景だと説明をする。

「光輝くんは人よりも勘は鋭いけど、その原因とか違和感を自分でもわかっていなかったり、人に説明できる語彙力がないんだよね」
「まぁーそうっすね」

 満に肩を叩かれ、頭を掻きながら照れ笑いを浮かべる光輝。二人が醸し出す朗らかな空気に飲み込まれそうになる香はいやいや、と手を大きく振り空気を払いのける、

「そんなことより、もっと大事なことあるでしょ」
「大事なこと?」

 香は冬木と満に学校にあった吸い殻たちのことを報告。
 満はいつも通りのゆったり顔で話しを聞くが、光輝がスマートフォンで撮った生徒会の見回り図と当番表を見せると表情が一気に締まった。

「柊さんか?、喫煙……」
「これ学校に言った方か?」
「いや、言ったところで、だろうな」
「まさか小野のやつ、選挙演説て?暴露しようとしてるんし?ゃね?」