光輝に視線を戻すと、光輝は鉄製の扉のまで靴を脱ぎドアノブをひねろうとしていた。
「そこ開いてないですよ」という香の言葉をかき消すように扉はギィーっと音を立てゆっくりと開く。
 熱のこもった体育館にひんやりと重たい湿気を孕んだ空気が流れ込み、中にいる人たちは一斉にこちらを見た。
 しかし、光輝は気にもとめず、あろうことかバスケ部のフィールドを突っ切って、顧問の先生の怒鳴り声を気にも止めずに反対側の渡り廊下へと出ていった。
 みんなは再び、突然開いた開かずの鉄製の扉の方を振り返るとそこにはみんなと同様、光輝の行動に唖然とした香の姿があった。集まる視線の中には女子バレー部として懸命に球拾いをしている優香の姿もあった。

「あ、えっと……失礼しました!」
 
 香は恥ずかしさやら混乱やら、いたたまれなくなり勢いよく扉を閉め、かかとが潰れた光輝の靴をつまんで、走り出す。

「なんなんだよもう!」


 香は訳がわからないまま光輝を探すと、校舎裏へと消える光輝の姿が見えた。

「なにやってんの!? みんな私たちのこと見てたでしょ!」

 どこかへ歩き去ろうとする光輝の首根っこを掴むと、光輝が裸足だったこと以上に光輝が掴もうとしていたものを見て香は驚いた。突然背後から引っ張られ驚いた光輝の手から茶色っぽい短い吸い殻が滑り落ちる。

「え、また吸い殻?」
「あーびっくりした。いきなり引っ張んないでよ」

 光輝はどこからか拾ってきたコンビニのビニール袋の中にタバコを入れ、またポケットへ入れる。香は光輝が脇にバインダーを挟んでいるのに気がついた。

「あ、これ。生徒会の校内の見回り図と担当者名簿。ここ、校舎裏も三日前に柊霧子が見回りに来てる」

 吸い殻と柊霧子の因果関係がより強力になる証拠以前に、なぜ光輝がそんなものを持っているかの方が気になった。

「そんなのどこで?」
「さっき生徒会室に行って貸してって言ったら、快くいいよって」
「えぇ……」

 絶対嘘だな、と思いながらも勝手に持ち出したり、盗んだりせずに正面から貸してと言ったのは本当のことなのだろうと思った。
 だってそんなやり方は正しくないからだ。
 それが、校閲部のモットーらしいから。