光輝と香は靴を履き、校舎の外へ。あたりを見回しながら歩く光輝について行くと突然、駐車場に止まった車の陰に身を隠し、香もつられてしゃがみこむ。

 車から頭を半分だけ出す光輝。その視線の先には体育館があった。校舎から少し離れた体育館には二つの出入り口がある。一つは西側にある校舎から繋がる渡り廊下から入る入り口と、もう一つは南側にある直接外に繋がる出入り口だ。
 中ではバレー部やバスケ部、卓球部などの室内競技の部活動が行われている。

 香も顔を上げると、体育館のすぐ近くに靴を履いた柊霧子の姿があった。柊は体育館の南側出入り口を素通りし、体育館の裏へと入っていく。
 それから五分あまりすると柊は出て来て、そのまま校門に向かって歩いていった。

「帰っちゃいましたよ。あと追いかけますか?」
「いや、さすがに校閲部でも学校外まであとを追うのは正しくないでしょ、って冬木が」
「あーそうですか」

 香の脳内に冬木が「正しくない」と眉間にしわを寄せて言い張る様子が浮かんで胸のあたりが重くなる。

 なんか苦手なんだよな、あの人。

「というかなんで柊さんを尾行してるんですか?」
「尾行なんて人聞きの悪い、これは取材だよ」

 柊の姿が完全に見えなくなると光輝は歩き出し、体育館の裏へと入っていく。

 日が当たらず、いたるところに苔が生えておりじっとりした空気が漂っている体育館裏。体育館からは常にスパイクが擦れる音やボールがバウンドする音などが忙しく聞こえてくるが、空気の入れ替えをするための大きな鉄製の扉は開いていなかった。
 以前は開けていたようだが湿気のせいで備品がカビてしまい、それ以来扉は開けなくなったらしい。おかげで反対側の扉だけ開けても十分に空気が換気されず蒸し風呂状態だと、優花は嘆いていた。

「あ、ティッシュ持ってる?」

 そう言いながら光輝は地面に座り込む。具合でも悪くなったのかと慌ててポケットティッシュを差し出すと、光輝はティッシュ越しに地面から何かを摘まみ上げる。

「これって……」

 それは、先端が黒く燃え、残された白い筒の箇所に緑色の細い線が描かれている、小さなタバコの吸殻だった。

「まさか、柊さんが?」

 光輝は無言でそれをティッシュで包むと、ポケットに入れ、空を見上げる。香も頭上を見上げるが緩やかな雲が流れるばかり。