それは私にとって、青天の霜靂《そうてんのへきれき》だった。

「えっ!? 部活入ったの?!」
「そうだよ。バレー部」

 そう言ってクラスメイトの大西優花は姿勢を下げ、手のひらを体の前で組みレシーブの構えを見せた。
 夏休みまであと二週間という最近、帰宅部仲間だった友達が次々と部活動に所属している。何もしないことに飽きた、とか怖い三年生が引退したから、とか理由は様々だったが中でもインドア派でオタクな優花だけはともに三年間、共に帰宅部として貴重とされる青春時代を贅沢に無駄遣いしてくれると信じて疑わなかったのに。

 彩田香はショックも戸惑いも隠すことができず、声どころか体まで震える始末だ。

「な、なんで……」
「推しが頑張ってるから、私も頑張んなきゃ、……ってね」

 余韻たっぷりに語る優花が肩にかける買ったばかりの小綺麗なエナメルバッグにアクリルキーホルダーがジャラジャラとついているのが見えた。どれも少し前から優花がどっぷり沼に使っている青春バレー漫画のキャラクターたちだった。

「香も入ろうよ、楽しいよバレー。体験入部だけでもさ」

 今度は空想上のボールを両手で軽く上へ押し上げるトスのパントマイムをする優花。

「うーん、私は……」

 ふんっ! と優花は力強く腕を振り下ろし、アタック。宙に浮いていた香の言葉ごと叩き落とす。

「やっぱり身体動かして汗流して、これぞ正しい青春のあり方って感じだね」
「裏切り者め」

 噴き出しながら優花はじゃあね、とジャラジャラとキーホルダーを鳴らしながら教室を後にする。他の生徒たちもみんな、各自部活動へと赴く。
 気づけば教室は香だけになっていた。

「正しい青春のあり方、ね……」

 優花に言われた言葉が引っかかり、香はあてもなく学校内を散策した。グラウンドを駆け回る野球部や陸上部をはじめとする運動系の部活動。楽器の音色を響かせる吹奏楽部や胸像を睨みながらスケッチブックに線を引く美術部などの文化系の部活動。
 色々のぞいてみたが、どれも香が興味を引くものはなかった。

 ふと掲示板が目に入り足が止まる。様々な掲示物の中で一際目立つ大きな文字を香は目で追いながら無意識に言葉にした。

「非公式・非公認・期間限定の部活の正体とは……?」