「……ジャンヌと結婚することにした」

 エドワードは、エリスと視線を合わせなかった。

「ジャンヌ? ジャンヌってどこのジャンヌです?」

 エリスは、エドワードが話題に出している『ジャンヌ』が、どこの誰だか察しはついていた。しかし、それを認めたくなかった。願わくば、どこか他の国の姫君であって欲しい、自分よりも身分の高い女性であれば、まだ納得のしようがある。

「この前、中庭で会っただろう? あのジャンヌだ」

「本気? あの者は娼婦でしょう? 国王が娼婦と結婚するなんていい笑いものです」

 エリスは何としてもエドワードを正気に戻したかった。

「それに……両陛下もお許しにならないのでは?」

「いや、父も母も承知している。むしろ、結婚するように言ったのは父と母だ」

「何ですって……?」

 にわかには信じられなかった。

(国王夫妻がジャンヌを認めたですって……? 何かがおかしい……)

 エリスはエドワードをさらに問い詰めることにした。

「それにしても、おかしいじゃありませんか。私は今、ここで初めてその話を知りました。私だけではなく、父も知らされていません。こんな重要な話、いつ決まったのです?」

「君がここに到着する直前だ。昨日までは予定通り君と結婚するつもりだった」 

 エリスはますます混乱した。

「私が到着する前に一体、何があったのです……?」

「……ジャンヌが妊娠した」



 エリスは頭から一斉に血の気が引くのを感じ、その場にへたり込んだ。

「エリス!」

 驚いたエドワードが、エリスに手を差し伸べた。

「いやっ、触らないで! 汚らわしい!」 

 エリスはエドワードの手を思いっきり払いのけた。

 エドワードは、手を引っ込めたままの姿勢で固まってしまっている。エリスはショック状態で過呼吸気味になり、肩で大きく息をしている。

「何で……何でよ? 妾でいいじゃない!」

 みっともないことをしているという自覚がエリスにはあったが、止められなかった。

「娼婦が次期国王の妾になれるのよ? それで十分じゃない? いいえ、十分過ぎるわ!」

「エリス……そういうわけにはいかないんだ」

「子ども? 子どもね?」

「そうだ」

「私だって、子どもなんていくらでも産めるわ! 誰が父親かわからない娼婦の子どもなんかじゃなくて、ちゃんとあなたの子を産むわ!」

 最後の方はほとんど絶叫に近かった。

「だが……君と結婚したとして、君との間に子どもが授かる保証はない」