ステュアート伯爵家は、朝から大忙しだった。

 あんなにも時間を割き、完全に準備を終わらせたものと思っていたが、当日は当日で色々とやることがあるらしい。

 今日、エリスは一人先に宮殿に入り、準備を整えることになっている。

 エドワードと会うのも久しぶりだ。久しぶりどころか、例の、あの中庭での一件以来である。

 今日までエドワードと会わなかったのは、気まずかったからである。今思い返してみれば、あの時のエリスのジャンヌに対する態度は大人気なかった。エリスは、エドワードに会ったら、非礼を謝ろうと考えていた。



 家族に見送られ、エリスは馬車に乗って宮殿入りした。

 エリスは、まず、いつものようにエドワードの両親である国王夫妻に挨拶に向かおうとしたが、何故だか別室に通され、この部屋で待つよう言われた。

 不審に思いながらも、エリスは、通された部屋で待つことにした。

 すると間もなくしてエドワードが現れた。

 エリスは、慌てて立ち上がり、先日の中庭での出来事について、真っ先に謝ろうと思った。

 しかし、エリスが謝罪の言葉を述べるのよりも先に、謝罪の言葉を述べたのは、エドワードの方であった。



「すまない、エリス……今日の婚約披露パーティーは無しにして欲しい」

 エリスは一瞬、エドワードが何を言っているのか、理解ができなかった。

「延期……ということですか? 何か問題でも……?」

「いや……」

 エドワードが首を横に振った。

「君との婚約を破棄するということだ。君とは結婚できない」

「なぜ、どうして……? もしかして、この間のことが原因なのですか!」

 エリスは、自分の行いのせいで、エドワードの機嫌を損ねてしまったのだと考えた。

「この間のことでしたら謝ります! だから、そんな……婚約破棄なんて……」

 エリスの目からは大粒の涙があふれ、最後の方は言葉にならなかった。

 これはエリスとエドワードだけの問題ではない。もし、この結婚が白紙になってしまったら、ステュアート家はどうなってしまうのか。

「理由を……理由をお聞かせください」

「そうだな。君には理由を知る権利がある」 

 この時エリスは、自分の名誉とステュアート家の将来を守るため、エドワードの心変わりを止めることができるのならば、どのようなことであっても受け入れるつもりであった。