その晩、エリスはなかなか寝付けなかった。

 ルードヴィッヒに求婚され、気持ちが昂っていたからだ。

 今まで散々酷い目に遭ってきたが、それがやっと最高の形で報われる。

 問題は、クロードやエリスを送り出してくれた人たちにどう説明するかだ。

 恩知らずな人間だと思われ、恨まれるかも知れない。与えられた任務を途中で放り出すわけだから、恨まれるのは当然だ。

 だが、ルードヴィッヒの言う通り、アインホルンの王妃になったら話が変わるのでは? 大国の王室との友好関係は、多くの利益をもたらす。

 むしろ、エリスのような追放された貴族の娘が、大国の国王に見初められたのだから、喜ばしいことである。

 エリスは良い方向に考えようと努めた。

(どうやって切り出そうかしら……? いいわ。明日、先輩に相談すれば。今日は色々ありすぎて疲れたわ……)

 少し安心したのか、急に眠気が襲ってきた。エリスは大きなあくびを一つすると、眠りについた。




 翌日、放課後まではいつもと変わらない日だった。

 今日、エリスはルードヴィッヒに返事をするつもりだった。もちろん、結婚の申し出を承諾する返事だ。

 早くルードヴィッヒと共に喜び合いたい。

 今まで恋愛とは無縁の生活で――恋愛など知らずに一生を終えるものだと思っていたが、思いもかけぬ状況で恋に落ちた。しかも、相思相愛だ。

「何かあったの? 今日は朝からとっても嬉しそう」

「そう? いつもと変わらないと思うけど」

「ふうん……」

 ロイは、完全には納得していない様子だったが、それ以上聞いてこなかった。

 その生い立ちゆえか、ロイは他人の変化に敏感だ。エリスの何らかの変化に気がついたとしても、ロイには想像もつかないことだろう。

(ロイ、ごめんなさい。今は言えないの……でも、近いうちにきっと全部話せるときが来るわ)




「それじゃあ、明日ね!」

「また明日」

 ロイと別れたエリスは、自室へ向かった。

 いつもはこのまま直接生徒会室に向かっていたのだが、今日は特別な日だ。気持ちの問題だが、身なりを整えてから生徒会室に向かいたいのだ。

「ただいま!」

「お帰りなさいませ。先ほど報せがありまして……お父上がお亡くなりになられたそうです」