「魔導? もうすでに廃れてしまった大昔の技術……のことですよね……」

 ルードヴィッヒの口から、〈魔導〉という言葉が出てくること自体が不思議であった。

 〈魔導〉は、はるか昔に存在していたと言われている技術であるが、エリスを含めた多くの現代人にとっては、おとぎ話の中でしか聞いたことがないものだ。

「いや、魔導は今でも存在する」

 そう断言するルードヴィッヒの顔は、至って真面目であった。

 エリスは、〈魔導〉とこの学校についての関係を詳しく聞こうとすると、

「ところでエリス、次の休日のことだが――」

 とルードヴィッヒに話題を変えられた。

 




「この学校は、魔導の研究所だったの?」

 部屋に戻ると、エリスはクロードに尋ねた。

「ええ、そうらしいですね」

 あっさりと認めたクロードに、エリスは驚きを隠せなかった。

 ルードヴィッヒは、〈魔導〉について話したくなさそうだった。

 だが、元生徒会長だった(?)クロードにはそのような素振りはない。

 ――個人的に触れられたくない話題だったのかしら……?




 休日――。

 エリスとルードヴィッヒは楽しいひと時を過ごした。

 この時ばかりは、自分に課せられた使命や運命を全て忘れることができた。

 ――私がこのような立場に生まれていなかったら、こんなに穏やかな時間を送れていたのかしら……? 

 隣にいるルードヴィッヒを見ると、エリスの視線に気が付いたのか、

「歩き疲れただろう? あそこのカフェで休憩しないか?」 

 と提案された。

「はい……」

 じっと見つめていたことを気づかれたようで、エリスは気恥ずかしくて目を伏せた。 




 カフェに入ると、個室に案内された。

 ルードヴィッヒはこのカフェによく来るらしく、カフェの主人と顔見知りのようだった。 

「よくいらっしゃるんですか――」

 お一人で――と口にしそうになったが、エリスは言葉を飲み込んだ。

「ああ。ここでゆっくりと一人の時間を過ごすのが、最近の楽しみなんだ。誰かと一緒に来るのは今日が初めてだな」

 ルードヴィッヒの言葉を聞いて、エリスは安堵した――それと同時に、安堵した理由に気が付いてしまった。

「今日、君をここに連れてきたのは、大切な話があるからだ」

 緊張が走った。個室を選んだのは、他の人間に聞かれたくない話なのであろう。だが、エリスには、ルードヴィッヒが何を語ろうとしているのか、全く見当がついていなかった。

「その……君のことを少し調べさせてもらった」

 再び緊張が走った。