あの中庭での一件があってからというもの、エリスは落ち着かない日々を過ごしていた。

 あの日見た、エドワードとジャンヌの様子が頭にこびりついて片時も離れないのだ。エドワードとジャンヌの仲睦まじい様子……まるで恋人同士のようであった。特にエドワードのジャンヌを見る目、あんなにも優しい目をエリスは今まで見たことがなかった。

 ――もしかして、エドワードはジャンヌに恋をしている?

 エリスの心に、ふと、そんな疑問が浮かんだ。

 しかし、エリスは確信が持てない。

 なぜならエリスは、まだ恋をしたことがなく、恋がどういうものなのか知らないからだ。

 だけど、それがどうしたことだろう? 王族や貴族の結婚に、恋愛感情は必要ない。家同士の発展のため、親が決めた相手と結婚する。ただそれだけだ。エリスとエドワードの結婚も親が決めたものだし、エリスの両親もその祖父母も代々親が決めた相手と結婚してきた。

 それはエリスもエドワードも承知している。そして、将来国王となるエドワードは、特に、自分たちの結婚がどんなに大事で、周りに影響を及ぼすものかも十分理解しているはずだ。

 だから、エリスとエドワードは何としても無事に結婚式を挙げなくてはならない。 エドワードがジャンヌを気に入っているのであれば、多くの夫婦がそうしているように、ジャンヌを妾にすればよい、エリスはそれくらいは許すつもりだった。

 ――そもそもエドワードの正式な婚約者で、由緒正しき伯爵家の令嬢である自分が、娼婦ごときに負けるはずがない。恐れる必要は全くない。

 エリスは自分で自分を奮い立たせるのであった。

 

 エリスとエドワードの婚約披露パーティーの日が近づき、エリス自身もパーティーの準備や、王妃教育の講義に追われ、今まで経験したことのないくらいの忙しい日々を送っていた。

 とは言うものの、実際は、エリス自身が敢えて自分にハードスケジュールを課し、忙しさに自分の身を任せようとしていたのである。

 エリスの望み通り、我を忘れるくらいの忙しさは、エリスから、エドワードとジャンヌのことを考える時間を奪ってくれた。もし、この忙しさがなければ、エリスは、よからぬ考えに心を占領され、心を病んでいたに違いない。



 ――そして、運命の日がやってきた。