「いい買い物ができましたね。きっと喜んでいただけると思います」

「そうか、それならいいが……」

「ええ、きっと」

 別れ際、エリスとルードヴィッヒはこのような会話を交わしていた。

「今日はとても楽しかったです。ここに来る前の生活を思い出しました――」

 ここまで口にすると、エリスは口を滑らせてしまったことに気がつき、慌てて口をつぐんだ。

 そして、二人の間にしばしの沈黙が流れた。

 先に口を開いたのはルードヴィッヒであった。

「君に謝らなくてはならないことがある。従妹の誕生日というのは嘘だ」

「え?」

 エリスは耳を疑った。

「あの……どういうことでしょうか?」

「君と一緒に出掛けたくて、嘘をついた」




 二人は再び沈黙した。エリスに至っては、どう答えて良いかわからなかったのだ。

 それでもどうにか会話を続けようと、

「では、どなたへのプレゼントですか……?」

「これは……君へのプレゼントだ」

「私に!?」

「そうだ。貰ってくれるか……」

 いつもは自信に満ち溢れているルードヴィッヒが、この時ばかりは消え入りそうな声で話している。

「あの――」

 エリスは迷っていた。本心では、このプレゼントを受け取り、ルードヴィッヒの思いに応えたい。しかし、反対に、今の自分に、ルードヴィッヒの思いに応える資格があるのか――エリスの心は揺れに揺れた。

「……頂戴いたします」

 結局、エリスは、ルードヴィッヒのプレゼントを受け取ることにした。

「そうか。ありがとう!」

 先ほどまでの自信なさげな態度と打って変わって、ルードヴィッヒは満面の笑みを浮かべた。

「嬉しいです……どうもありがとうございます」 

「また誘ってもいいか」

「はい……」

 ルードヴィッヒの誘いを受けながら、エリスは心の中で必死に否定していた。

 ――これは先輩と仲良くなって、王子の情報を引き出すため。決して、私情は挟んでいない。国のために仕方がないこと。

 だが、打ち消せば打ち消すほど、ますます空しい気持ちになるのも事実だった。