「次は何を買いに行くのですか?」

 次の休みの日、約束通りエリスとルードヴィッヒは二人で買い物に来ていた。

 買い物の内容は、生徒会で使う備品であった。

(これだったら、私じゃなくて、ロイや他の人でも良かったような気がするわ……)

 ルードヴィッヒから買い物の話を聞かされたとき、エリスはロイも一緒に連れて行くよう提案した。しかし、エリスにしか頼めないことがあると、提案は拒否された。

「この店だ」

「ここは……!」

 ルードヴィッヒが次に入った店は、婦人用の洋品店であった。




「思った通りだ! とてもよく似合っている」

 試着室から出てきたエリスを見るなり、ルードヴィッヒは感嘆の声を上げた。

「この服は一体、どういうことでしょうか……?」

 店に入るなり、試着室に置いてある服――ドレスに着替えるように言われた。ルードヴィッヒのことだから、何か重要な意図があると思い、エリスは、言われるがままにドレスに着替えた。

「実は今日、君に来てもらったのは、従妹の誕生日プレゼントを選ぶのを手伝ってもらいたかったんだ。流石に男が女性向けの店に行くのは気が引ける。それに、今どきの若い女性はどんなものが欲しがるのか、全く見当がつかなくてね」

「わかりました。お手伝いします」




(こうやって男の人と一緒に町中を歩くのは初めてだわ)

 今日は朝からルードヴィッヒと一緒に行動しているが、ドレスに着替えた途端、急に自分が女性であることを強く意識し始めたみたいだ。

 そうなると、何を話していいのかわからなくなった。ルードヴィッヒとの共通の話題は、学校の話であるが、それはそぐわない。かと言って、自分の身元がわかってしまうような話をするわけにはいかない。

 そんなことを考えながら、エリスは今はプレゼントの品を探すのに没頭しているように見せかけていた。

「あら? これは……」

 エリスは、とある骨董品屋のショーウィンドウの前で立ち止まった。

「おや、素敵なブローチだね」

「ええ、母がこれによく似たブローチを持っていました……」

 このアンティークのブローチは、エリスに母を思い出させた。

 あんな形で別れてしまったが、母は、父は、妹は元気だろうか。

「どうした、ご家族が恋しくなったのか?」

「いえ」エリスは慌てて否定し、「ちょっと気になることがあって」と代わりの話題を持ち出した。

「そのブローチに何か気になるところでも?」

「はい。これが母が持っていたブローチと同じ工房の物だとしたら、値段が安すぎます。違うのかしら……?」

「骨董品屋で売られている物だから、安く売られているものもあるんじゃないか?」

「もしこれが本物だとしたら、当時、その工房に在籍していた天才職人が作った逸品です。彼の作った品は、今でも高額で取引されている、いえ、年々価値が上がっていると母から聞きました」

「本物だったら、いいプレゼントになりそうだな」

 エリスは大きく頷いた。

「実際に手に取ってみたら、見分けることはできるか?」

「多分……」

「店に入って確かめよう」

 ルードヴィッヒは、エリスの手を引き店内に入って行った。