「……」

 即答することはできなかった。ルードヴィッヒの意図がわからなかったからである。

「……あの、――」

「ああ、君の正体のことか?」

 エリスは黙って頷いた。

「それは関係ない。君を生徒会に誘うことは、披露会のときにもう決めていた」

「え……?」

「意外そうな顔だな。舞台上での君のあの姿を見たら……全く、凄い肝の据わりようだった」

「あ、あれは……その……あの場ではああするしか他になかったというか……」

 純粋に褒めてくれているのはわかっているが、汚物塗れで、何振り構わずバイオリンを演奏していた姿を褒められるのは、いささか恥ずかしいものがあった。

「無我夢中でやった、ということか」

「はい。そうです」

「それにしても、大の大人でも逃げ出してしまうような状況で、あれだけのことをやってのけたんだ。大したものだ。確かに君はこの学校に来てからまだ日が浅い。だが、君が生徒会に入ることに異を唱える者はいない」

 もう縁がなくなったと思っていた生徒会への誘いであった。




「改めて言う。生徒会に入ってくれないか?」

「……わかりました」

 ルードヴィッヒの顔がほころんだ。

「その代わりと言っては何ですが、お願いがいあります」

「なんだい、言ってごらん」

「……ロイも、ロイも一緒にいいですか?」

 厚かましすぎるお願いだったか、それとも言い方が直接的過ぎたか。口にしてからすぐにエリスは後悔した。

「それなら、決まりだな」

「どういうことでしょうか?」

「ロイについては、いずれ生徒会に誘おうと考えていた。ロイは優秀な子だからね。生徒会としても、必要な人材だ。ちょうどいい機会だから、ロイも一緒に生徒会に迎えることにしよう。さ、これでいいか?」




 エリスとロイは生徒会の一員となった。一員といっても、あくまでも現在の立場は、雑用係である。 

 雑用係の仕事は、資料の整理や下調べ、掃除、会議のときのお茶の準備など多岐にわたる。

 学校内のことに疎いエリスは、掃除やお茶の準備など生徒会の建物内の家事的な仕事を担当し、ロイは、調べ物や資料作成の手伝いなどを担当した。

 お妃教育の一環として、エリスは家事を厳しく叩き込まれていた。したがって、家事的な仕事は問題なくこなすことができた。ただし、お茶会で出すお茶やお菓子はクロードに用意してもらっていたが。

 ――ロイが一緒に生徒会に入ってくれて、本当に良かった。

 雑用係の仕事量が多いということもあり、エリス一人だけだったら、きっとてんてこ舞いになっていただろう。




「次の休みに買い物に付き合ってくれないか?」

 エリスが仕事を終えて帰ろうとしたとき、ルードヴィッヒがエリスを呼び止めた。