披露会が終わっても、特に目立った動きはなかった。

 強いて言えば、エリスへの嫌がらせがなくなったことである。

 舞台上でのエリスの振る舞いを見たら、嫌がらせをする気もなくなったというのが本音かもしれない。

 要は、何をしても無駄――ということに気が付いたらしい。

 また嫌がらせが再開する可能性も無きにしも非ずだが、当面は平和に暮らせそうだ。

 そして、その他の変化はというと、学校中どこへ行ってもじろじろと見られる。

 話しかけてくるなり、何か行動を起こしてくれればいいものの、ただ遠巻きに見ているだけである。最初は不快に感じていたが、それもすぐに慣れた。




 その後、ルードヴィッヒとは何もない。そもそも学校内で一度も遭遇することなかったが。

 たとえ会ったとしても、何を話せというのか。きっとエリスは、ルードヴィッヒの姿を見た途端、恥ずかしさのあまり逃げ出してしまうに違いない。

 それに、エリスは、ルードヴィッヒに正体を知られてしまったことを、まだ、クロードに伝えていなかった。

 本来ならば、真っ先に言わなくてはならない。しかし、エリスは、ルードヴィッヒにどうやって正体をしられてしまったか――裸を見られてしまったことを、恥ずかしくてどうしても言えなかったのだ。

 幸いなことに、ルードヴィッヒはエリスの正体を誰にも話さないと約束してくれた。

 ならばこのまま、何事もなかったことにしておきたい。エリスがそう考えるようになった矢先であった。




 エリスは生徒会長室に呼び出された。呼び出したのはもちろん、ルードヴィッヒである。

(何の用かしら……)

 エリスには、ルードヴィッヒに、わざわざ生徒会長室に呼び出される理由が思い当たらなかった、いや、唯一考えられる理由はあるにはあったが、それも少し違う気がしていた。

 道すがら、あれこれと考え事をしているうちに、エリスは生徒会長室に辿り着いてしまった。




 生徒会長室に入ると、中にはルードヴィッヒ一人しかいなかった。

「今日はどのようなご用件でしょうか?」

 気が急いていたせいか、部屋に入るなり挨拶もそこそこに、エリスの方から尋ねてしまった。エリスの気持ちが通じたのか、ルードヴィッヒもすぐに用件を切り出してくれた。

「単刀直入に言う。生徒会に入ってくれないか?」