「ジャンヌ。こちらは……」

「エドワード王子の婚約者、エリス・ステュアートと申します」

 エドワードの言葉を遮って、エリスはジャンヌに自ら名乗った。

「婚約者……!」

 ジャンヌは、そう言ったきり、今にも泣きそうな顔をして、エドワードを上目遣いに見た。

 そんなジャンヌに温かな眼差しを向け、優しくジャンヌの手を握るエドワード。

 まるで、〈何も心配しなくていい〉と言っているかのように。

 そんな二人の様子を見て、エリスの心の底から得たいの知れないどす黒いものが沸き上がってきた。

「せっかくこうやってお知り合いになれたのですから、私たちの婚約披露パーティーに、ジャンヌさんも来ていただいたらどうかしら? ねえ、エドワード様」

 こんなことを言ってはいるが、エリスは内心、平静を保つのに必死であった。

「エリス!」

 エドワードは怒っているようだった。

 それもそのはず、王族が主催するパーティーに、娼婦ごときが参加できるはずがない。エリスが、それを知っていて言っているのが、エドワードにはわかったからである。

 本来、エリスはこのような意地の悪いことをする女ではない。全てにおいてエリスよりも格下のジャンヌなど、捨て置くべき存在だ。

 なのに、エリスはジャンヌを無視できない。



 今三人がいる中庭は、エリスとエドワードにとって特別な場所であった。

 滅多に人の来ることがない中庭は、幼い頃のエリスとエドワードにとっては、二人だけの秘密の遊び場であった。年齢を経てからも、二人きりのときはよくこの場所を訪れた。

 その場所にエドワードは、ジャンヌを連れてきた。

 エリスは、自分とエドワードの聖域を土足でずけずけと入り込まれたような感覚に陥った。

 そして特に、エリスが最も腹立たしく思っているのは、大切な場所だと思っていたのはエリスだけで、エドワードにとってはそうではなかったらしい――ということだ。

 らしい――というのは、エドワードの意図がいまいちよくわからないからだ。

 もともとこの場所を大切な場所だと思っていたのは、エリスだけだったのか、それとも、この大切な場所に連れてくるほど、ジャンヌがエドワードにとっての特別な存在になってしまったということなのか。

 どちらにしろ、ジャンヌの存在がエリスとエドワードとの関係に影響を及ぼし始めていることは否めない。