とうとう披露会当日となった。

 ロイに散々怖いことを聞かされたせいで、エリスも身構えていたのだが、結局、何の妨害や嫌がらせを受けることなく、無事に披露会当日を迎えるに至った。

「今日はずっと君のそばにいるよ。このまま何事も無く終わるとは絶対に思えない!」

「ありがとう、ロイ」

「本番中は舞台袖で見張っているからね! 『何も心配しなくていいよ』と断言はできないけど……ごめんね、力不足で」

「いいえ。その気持ちだけで十分」




 エリスの出番は、抽選の結果、一番最後になった――偶然なのか、何者かの意思によるものなのかはわからなかったが。

 今年の披露会も、生徒会主催で、例年通り開催されることとなった。

 披露会に出場する者は、着替えの必要があるため、自室で衣装に着替え、そのまま係りの者が迎えに来るのを待つ。

 一人一人の持ち時間は五分程度しかなく、着替えの時間や寮から講堂までの移動時間を考えると、出番が一番最後のエリスは、他の出場者の演技や演奏を見る時間はない。辛うじて、自分のすぐ前の出場者の演奏を、舞台袖から待機がてら覗くことができる程度である。

「ただいま!」

 ロイが講堂から帰ってきた。

 自室にいるときは、クロードもいるので、危害を加えられることは決してないが、問題は部屋から出た後である。

 部屋から講堂まで行く間、披露会が終了するまで、エリスの身を守ってくれるのは、ロイだけである。しかし、それも限度がある――舞台上で何かが起きた場合は、エリス自身が対処しなくてはならない。

 そこでロイは、講堂の内部の様子や、寮から講堂に至る道のりに異変がないか調べてくれていたのである。

「いかがでした?」

 披露会のことで、いっぱいいっぱいになっているエリスに代わり、クロードがロイに尋ねた。

「今のところ、特に問題はないみたい。最初の方の出場者も何人か見てきたけど、何も起こらなかったよ」

「そう……」

 ロイを疑うわけではなかったが、それは絶対にあり得ないとエリスは思った。むしろ、この何もないこと自体が、確実に何か起こることの不気味な前触れであるかのように感じた。 

 そうこうしているうちに、ドアがノックされ、迎えが来た。

 これといった対策も立てられぬまま、エリスは間もなく舞台に立つことになる。