「今日はとっても楽しかった! きれいなお嬢様と一緒にお茶しているのかと錯覚しちゃったよ。演劇部にも、こんなに完璧な令嬢を演じられる人はいないんじゃないかな?」

「そ、そう……? でも、喜んでもらえてよかったわ」

 エリスは力なく笑った。

「もうこんな時間! 僕、もうそろそろ帰るね」

 ふと壁時計に目を留めたロイが、慌ただしく立ち上がると、

「廊下まで見送るわ」

 といつものようにエリスも見送りのために立ち上がった。すると、「今日はここでいいよ」とロイはエリスを制した。

「?」

「いや、だって……今の君の姿を他の人に見られたらまずいと思うよ」

 不思議そうな顔をしているエリスに、ロイは説明した。

「そ、そうよね」

「じゃあ、また明日ね!」




 ロイの見送りを終え、戻ってきたクロードに、

「どういうつもりなの、クロード!」

 とエリスは厳しい一声を浴びせた。

「何のことでしょう……?」

 この期に及んで、すっ呆けているクロードに、エリスは再び腹を立てた。

「このドレスのことよ! こんな服を選ぶなんて、何を考えているの?」

「とてもよくお似合いだと思いますが。ロイ様にも太鼓判を押していただけたことですし」 

「そうではなくて――」

「『こんなのは仮装ではない』、そうおっしゃりたいのですか?」

「ええ、そうよ! 当り前じゃない!」

「では、あれ以上のアイデアをお持ちですか? 今のこの状況では、あれが最善です」

「それは……」

 エリスは、言葉に詰まった。

 確かにクロードの言う通りだった。

 仮装のアイデアが浮かばないから、クロードに丸投げしてしまったのは自分だ。だからと言って、代わりのアイデアを出すこともできない。

「ただでさえ他の出場者よりも不利な状況にいる貴女が、生徒会の役員に選出されるような完成度を求めるとしたら――他に選択肢はありません」

「……わかったわ。何だか卑怯なことをしているようで、気が引けるけど、この場合は仕方ないわね」

「卑怯? もうすでに性別を偽ってこの学校に入っているのですから、今更卑怯も何もないでしょう。貴女の最終目的は何ですか? この程度のことで躊躇しているようならば、先が思いやられます。それに、貴女が今までされてきたことを考えますと、これくらいは、卑怯のうちに入らないのではないかと考えます」