(クロード……一体、何を企んでいるのかしら?)

 嫌な予感を抱きつつ、エリスはクローゼットを開けた。

 するとそこには、見慣れたものがあった。

(まさか、クロードはこれを着ろと……?)

 衣装だけではなく、それに見合った小道具もきちんと用意されていた。大変有能な執事らしく、この辺の手配には抜かりがない。

(確かに、この手の服を完全に着こなせるのは、この学校には私しかいないだろうけど……)

 エリスが色々と思いを巡らせている内に、時間がだいぶ経過してしまったらしい。

「ねえ、着れたー?」

 ロイがドアの向こうから催促してきた。

「もう少し待って!」

 エリスは支度を急いだ。




「うわあ……」

 エリスが姿を現すと、ロイがため息を漏らした。感嘆のため息である。

「そんなにじっと見つめないで、ロイ。恥ずかしくなってしまうわ――」

 ――どうしよう……こんな格好をしたせいか、つい言葉遣いが……。きっとロイはおかしいと思ったに違いないわ……。

 一度伏せた顔をゆっくりと上げ、ロイの顔を見る。

 ――やっぱり……。驚き過ぎて口が半開きになっている。

「本当に君、アーサーなの?」

「え、ええ……」

 今度はエリスが驚く番だった。

「すごい! どこのご令嬢かと思ったよ! 令嬢……いや、お姫様かな? 会ったことないけど」

「そ、そう……」

「うん! 格好だけじゃなくて、身のこなしや言葉遣いも女性そのものなんだもの!」

 エリスは内心、穏やかではなかった。エリスがドレスを身に纏い、ちょっと女性の仕草をしただけで、この反応だ。もし、ロイよりも勘が鋭い者だったら、エリスが本当の女性だと気づいてしまうかもしれない。

「今日はこれくらいでいいでしょう? もう着替えてくる」

 気恥ずかしさや気まずさで、エリスがその場を逃げるように立ち去ろうとすると、

「もうすぐお茶の時間ですので、今日は〈女性として〉ロイ様とお過ごしになられたらいかがでしょうか?」

 面白がっているくせに、それをおくびにも出さないクロードが憎たらしい。

「それ、いい考え! 君がどれだけ完璧な令嬢を演じられるか見てあげるよ! ルーイ兄さまを、いや、みんなを驚かせてやろうよ! 楽しみだなあ」

 そして、何の下心もなく、無邪気に振舞うロイは、悪気がない分、さらに厄介だった。