「責任重大だな……」

 エリスは大きくため息をつく。〈披露会〉をただのお遊戯会程度のものだと甘く見過ぎていた。

「もし僕が披露会で無様な姿をさらせば、僕を代表として選出したクラスのみんなにも恥をかかせることになる」

「それだけじゃない。君がしくじれば、もう二度と生徒会役員の候補に君の名前が挙がることはなくなる。それこそが連中の狙いさ」

「そう……」

 ――面倒なことに巻き込まれた。そもそも生徒会も生徒会の人脈も、エリスの目的には関係がない。せっかくルードヴィッヒに近づけたのに、重要な手がかりを得ることができなくなってしまうかも知れない。

「クロードさんが選んでくれた衣装と、君のバイオリンの腕前があれば、結果として生徒会に入れなかったとしても、誰も恥をかくことはない。ただ――」

「『ただ』、何?」

「披露会の当日に、何らかの妨害を仕掛けられるかも……。僕はそれが心配だよ」

「……」

 ――無事に披露会を終えることができるのだろうか……。ちょっとやそっとの事には動じない自信はあったが、大勢の人の前で、突然、予期できない災難に見舞われたら……。



「あ、でも! 君は生徒会に入ることにあまり乗り気じゃないみたいだけど、生徒会に入ればいいことだって、もちろんあるんだよ――もう誰も君に手出しをすることができなくなる。要は、今されているみたいな嫌がらせが一切なくなるってことさ」

「嫌がらせに屈するか、生徒会に入るかの二択しかないということか……」

 まさに究極の選択であった。またしてもため息が出た。

 当日、仮病を使って休んでしまおうかとも考えたが、それでは敵前逃亡としてさらに批判されかねない。

「僕も、君が無事に披露会を終えられるように、協力するよ!」

「ありがとう、ロイ」 

 エリスは心を決めた。




「披露会用の衣装が届いております」

 放課後、学校から帰ってくるなりクロードから報告を受けた。

「どんな衣装? 見たい! 着てみてよ!」

 ロイがせがんだ。

「ロイ様もこうおっしゃっていますし、今、試着してみてはいかがでしょう」

「今!?」

 エリスは驚きのあまり、素っ頓狂な声を上げてしまった。

「どうせここには僕とクロードさんしかいないんだ。恥ずかしがることはないよ!」 

「ええ、その通りです。衣装はクローゼットにしまっておきました」

 いつも無表情なクロードが、この時ばかりは嬉しそうにしていたのが癪に障った。