放課後の帰り道。エリスとロイの会話の内容は、自然と披露会のことになった。

「ねえ、いいの? 披露会の代表をあっさり引き受けちゃって」

「ああ、そのこと? あまりいいとは言えないけど……みんなの前でバイオリンを弾けばいいだけの話だから……」

 ロイが大きなため息をついた。

「僕は今、後悔しているよ。君に、もっとちゃんと披露会のことを話しておけば良かったって」

「ただ芸を披露するだけの会ではない?」

「そうだよ。あいつらの顔を見たでしょ?」

 エリスは、クラスメイトたちの顔を思い返していた。

「あの顔はそういう意味だったんだ……」




「ええ! そんな、どうしよう……」

 ロイの話を聞き終わると、エリスは絶句し、クロードの方を縋るように見た。

「仮装なんてどうすればいいの?」

「『どうすれば』と言われましても……。まあ、何も考えがないわけではありません。少しお時間をいただければ、手配いたします」

「そう、良かった……。仮装の件はクロードに任せるよ」

「かしこまりました」

「ロイ、教えてくれてありがとう。当日は恥をかかなくてすみそうだ」

 大きな仕事を片付けた後のような解放感からか、エリスは完全に緊張から解き放たれていた。

「実は、この披露会にはもう一つ大きな意味があって」

「まだ何かあるの?」

 再び緊張が走った。

「むしろこっちの方が、披露会の本当の目的だと思う。披露会は、生徒会役員の選抜を兼ねている」

「ならば、ますますこの学校に入ったばかりの僕がクラスの代表に選ばれるのはおかしい。他にもっとふさわしい人が……」

「そうなんだよ。君が選ばれるのはおかしいんだ。この学校には、王族や貴族をはじめとする上流階級の息子が多い。そういった連中は大抵、上流階級の嗜みとして、楽器の演奏くらいは普通にできる。確かに、君やルーイ兄さまの腕前はかなりのものだと思うけれど、それは特段、珍しいことじゃない。例えば僕らのクラスの級長は、成績優秀だし、彼のピアノの腕前もかなりものだって聞いている。順当に行けば、級長が代表に選ばれていたんじゃないのかな……」

 生徒会の役員を選ぶような大切な場を使ってまで、自分は嫌がらせを仕掛けられているのかと思うと、エリスは恐ろしくて身震いした。