「もう間もなくお客様がお着きになります。ご準備を」

「わかった。今行く」

 エリスは、鏡の前に立ち身だしなみを整え、出迎えの用意をした。



「そろそろ披露会の時期だが……君たちのクラスは誰が出るんだい?」

 ルードヴィッヒは、新たな話題を出した。

「いえ、まだです。来週あたり決めるんじゃないかな……」

「あの、披露会とは何でしょうか?」

 エリスは、初めて耳にした<披露会>についてルードヴィッヒとロイに尋ねた。

「ああ、君はこの学校に入ったばかりだから、知らなかったね」

「披露会っていうのはね、この学校の伝統行事で、クラスから一人代表を出して、その人が全校生徒の前で一芸を披露するんだ」

 ロイが、ルードヴィッヒに代わって説明をした。

「へえ」

 エリスは相槌を打ちながら、他人事のような話として聞いていた。

「ところで、窓の下を歩いているときに、バイオリンの音色が聞こえて来たんだが……あれは君が弾いていたのか?」

「え、あ、あの……聞いていらっしゃったんですか?」

 自室の窓を開けっぱなしにして、バイオリンを演奏してしまったいたことをエリスは急に思い出し、恥ずかしくなった。

「久しぶりに演奏したので上手く弾けなくて、本当にお恥ずかしいです」

「いや、とても素晴らしかった。どうだろうか? 今、ここで聞かせてもらえないか?」

「わあ、賛成! 僕も聞きたい!」

 二人にせがまれ、それでもエリスがまだ重い腰を上げないでいると、

「お客様をおもてなしすることも主人の重要な役目です」

 とクロードまでもがエリスを急かした。



「さすがに『今、ここで』というのは、急すぎるお願いだったかな」

 エリスは、難を逃れたと胸をなでおろした。

 しかし、次の瞬間、

「ここの部屋にはピアノがあるな……」

 と、ルードヴィッヒは室内にあるグランドピアノに目を留めた。

「調律済みですので、すぐにお使いいただけます」

 ルードヴィッヒが言わんとしていることを、クロードはいち早く理解し、すぐさま反応した。

「そうか。準備がいいな」

 クロードは、鍵盤蓋を開け、椅子のセッティングをした。

「どうぞ」

「ありがとう」

 椅子に腰かけたルードヴィッヒは、エリスの方を向き、

「どうだ、合奏しないか? 曲は君がさきほど演奏していた曲でいい」