その日、エリスは朝からそわそわしていた。

「お花はどこに置けばいい? この花瓶はどう?」

「そのように私の前をうろつかれると非常に邪魔ですし迷惑です。大人しく座っていていただけませんか」

「そう言われても……」

 エリスがこのように浮足立っているのには理由があった。

 今日、ロイがルードヴィッヒを連れてこの部屋にやって来るのだ。

 エリスは、クロードに言われた通りに椅子に座ってみたものの、やはり落ち着くことができなかった。

「全くあなたという方は……時間になったらお知らせしますので、お部屋でお待ちください」

 呆れ気味のクロードに促され、エリスは大人しく部屋へ引き下がった。



(やはりご招待しなかった方が良かったかしら……。ご招待するにしても、色々と準備が整ってからの方が良かったのでは……?)

 一人になったエリスは、クロードの目がないことをいいことに、忙しなく部屋の中を行ったり来たりしていた。

(あら? あれは……)

 エリスは部屋の隅に目を留めた。

 そこには、見慣れぬ箱が置いてあった。

(ああ、クロードが言っていたのはこの箱のこと?)

 数日前、エリスはクロードに、この荷物が届いていることを知らされていた。クロードに中身を確認するようにも言われていたが、エリスは、忙しさにかまけてまだ手をつけていなかったのだ。

 エリスは、箱に近づいて蓋を開けた。

 中には、エリスが以前、読みたいと言っていた本や、昔から愛用しているインクが入っていた。

(良かった、手に入って)

 エリスは、インクの瓶をつまみ上げ、満足気に眺めた。

(これは何? お願いした覚えはないけど……)

 箱の中には、頑丈そうなもう一つ箱が入っていた。

 このような箱に入れられているのだから、その中身は繊細な物であることが予想できた。

 エリスは静かに蓋を開けると、中に入っていたのはバイオリンだった。

(これ、私のだわ……)

 クロードが手配してくれたのか、誰かが気を利かせて荷物の中に入れてくれたのか。

 久しぶりの旧友との再会は、エリスを一瞬にして緊張から解き放ってくれた。

(せっかくだから、弾いてみようかしら)



「おや……?」

「どうしたんですか? ルーイ兄さま」

「いや、バイオリンの音色が聞こえるんだ。ほら、あの窓から――素晴らしい音色がね」

「あの場所は確か……。アーサーの部屋じゃないかな? へー、アーサーってあんなにバイオリンが上手だったんだ」