「ところで、その『クロードさん』についてもっと詳しく教えてくれないか?」

「クロードさんは、アーサーの執事で、紅茶を淹れるのがとっても上手なんです」

「へえ……それは興味深い。伝説の生徒会長殿も随分と紅茶に拘りがある人物だったみたいだからね」

「ええー! やっぱりクロードさんが伝説の生徒会長だったんだよ!」

 ロイが目を輝かせながら、エリスを振り返った。

「ロイ、そう決めつけるのは早すぎだよ。紅茶が好きな人なんて、この世にいくらでもいる」

「そうかなあ……」

「絶対にそう!」

 そう断言してみたものの、エリス自身が一番、クロードと伝説の生徒会長は同一人物ではないかと疑っていた。

 だが、自分やクロードが何の為にこの学校にやって来たのかを考えると、たとえ否定する余地がなかったとしても、否定する以外のことは出来なかった。



「ならば、今度、俺を君たちのお茶会に招待してくれないか?」

「!」

「わっ! ルーイ兄さまが僕たちとお茶を!」

 エリスとロイは、ルードヴィッヒの申し出に対し、全く反対の反応を示した。

「どうしたんだ、レディ? 浮かない顔をしているようだが。俺がお茶会に参加するのは不満かい?」

 ルードヴィッヒは、ごく自然な様子で、エリスの顔を覗き込んだ。

(ち、近い……!)

 いきなり目の前にルードヴィッヒの顔が現れ、エリスは思わず息を呑んだ。

「いえ、全然そういうわけではなく……、その、クロードの都合も聞いてみないと……」

 エリスはルードヴィッヒの視線を避けながら答えた。

「クロードさんだったら大丈夫だよ! 僕がいつ行っても、完璧にもてなしてくれているよ!」

(ああ、ロイったら余計なことを……)

 エリスは自分の身の上を恨めしく思っていた。もし、今、〈アーサー〉ではなく〈エリス〉であったら、ルードヴィッヒの申し出を喜んで受け入れていただろう。だが、〈アーサー〉であるエリスは、〈アーサー〉に徹し、目的を果たさなければならない。

 確かに、ルードヴィッヒに近づく良い機会であることには間違いない。しかし、ルードヴィッヒの方が、クロードに積極的に興味を持つとは考えてもみなかった。

 短い間ではあるが、エリスはルードヴィッヒと接してみて感じたことがある。それは、ルードヴィッヒに見つめられていると、心を見透かされているような気分になることだ。

 それゆえ、自分とクロードが何の目的でこの学校にやってきたのか、ルードヴィッヒに感づかれてしまうのではないかとエリスは漠然とした不安を抱いていた。

「レディの言うことももっともだ。いきなり客が一人増えるんだ。執事殿の都合も聞くべきだろう」

「……わかりました。クロードに聞いておきます」