「え! クロードさんが伝説の生徒会長?」

「いや、だから、まだクロードが伝説の生徒会長と同一人物と決まったわけじゃないから!」

 ロイは、すっかりクロードを伝説の生徒会長だと決めつけている。

「伝説の生徒会長って、学業の成績はもちろんですけど、生徒会長としてもすごく有能で、この学校に様々な改革をもたらしたんですよね?」

 ロイはルードヴィッヒに同意を求めた。

「ああ、よく知っているね。そうだ、いいものを見せてあげよう」

 ルードヴィッヒは、エリスとロイをキャビネットの前に連れて行くと、引き出しを開けてみせた。



「これは……タイ?」

 引き出しの中には、色とりどりのタイが一つ一つケースに入れられて保管されていた。どれもエリスたち一般の生徒が着用しているタイとは、違う色をしていた。

「そう、歴代生徒会長のタイだ。残念ながら全員分はないが」

「じゃ、じゃあ、伝説の生徒会長のタイもあるんですか?」

 ロイは、興奮を隠しきれていない様子だ。

「これだ」

 ルードヴィッヒは、ケースを一つ手に取り、エリスとロイに見せてくれた。

「俺はこのタイが欲しい」

「……タイが欲しい? ご自分でタイを買えばいいのではないですか?」

 エリスは、当然過ぎる疑問を口にした。

「あのね、アーサー、この学校には、卒業する先輩が、後輩に自分のタイを託すという伝統があるんだ。タイを託されるのは、先輩に認められたってことで、ものすごく重要な意味があるんだよ」

「そんな伝統があるなんて知らなかった――では、ここにタイがあるということは、託すべき後輩がいなかったということでしょうか?」

 エリスがルードヴィッヒに問いかけると、

「ははは、手厳しいことを言うな、君は。確かにその通りだ」

 とルードヴィッヒは声を上げて笑った。

「伝説の生徒会長殿が卒業するときは、残念ながら、彼がタイを託すに値する後輩はいなかった。俺は彼に認められたい、そして、このタイを託されたい」

「どうして伝説の生徒会長なんですか? 他にも優秀な先輩はたくさんいらっしゃるのに」

「何でかって? それは彼が一番優れた生徒だからだ」

「直接お会いになったことは……?」

「いや、ない。俺が入学したのは彼の卒業後だったからね。でもあの頃はまだ、彼を直接知っている先輩方もいて、よく話を聞かせてくれた。中には誇張かと思うような話も多々あったけれど。生徒会に入ってからは、歴代の生徒会に関する資料を読み漁った。やっぱり本当にすごい人だった」

 ロイを始め、多くの生徒に敬愛されているルードヴィッヒにも、尊敬している人物がいて、しかもその人物があのクロードかも知れないということに、エリスは戸惑っていた。