すごい光景だった。

 廊下を散り散りに歩いていた生徒たちが、波が引くかのように、一斉に左右の廊下の端に寄った。そして、誰もいなくなった廊下の中央を、悠々と歩いてくる一団がいた。

 左右に分かれた生徒たちは、その一団の様子を身動きもせず、目だけで追っている。

 ロイもその一人であった。

 エリスは、ロイに聞きたいことがたくさんあったが、肝心のロイは、他の生徒と同様、固まってしまったかのように動かない。

 そこでエリスは、自分の目から入ってきた情報のみで状況を判断する必要があった。

 廊下の中央を歩いているのは三人。

 この三人が身に纏っている制服は、他の生徒たちのものとは異なった特徴があった。

 内二人は、ロイと同じスカラーのジャケットを着用しているが、中央を歩いている生徒は、どの生徒とも異なるテイルコートを身に付けていた。

 だが、ベストだけは三人とも同色であった。

 生徒会長の姿をよく見ようと、人垣の隙間から身を乗り出した。

(あれは……!)

 あることに気がついたエリスは、すぐに体を引っ込めた。

(どうしてあの人が?)

 同じ学校の生徒なのだから、いつかは出会う機会が来るのだろうと、エリスは漠然と考えていた。

 しかし、その機会がこんなに早く、このような形でやって来るとは思いもしなかった。

 気恥ずかしさから、エリスは隠れるように他の生徒たちの背後で身を屈めた。



 ロイが、エリスの袖を軽く引っ張り、エリスに何かを知らせようとしていた。

 エリスがロイの視線の先を辿ると、

「また会えたね、レディ」

 と微笑みかける人物がいた。

「あ、あの……試験のときはどうも……」

 やっとの思いでそれだけ言うと、エリスは目を伏せた。恥ずかしくてまともに目を合わせられない。

「まずは入学おめでとう。君とは時間をかけてゆっくりと語り合いたいのだが、あいにく今日はこれから生徒会の用事があってね」

「生徒会……」

 エリスが、何か思いついたように小さく呟いたとき、

「会長、もう時間が……」

 という声が聞こえた。

(え? 今、『会長』って言った……?)

 エリスは『会長』という言葉に即座に反応した。

「わかった……というわけだ、レディ。名残惜しいが、次の機会に期待しよう。困ったことがあったら、いつでも生徒会室においで」