エリスは将来、王妃になる身である。そこで、エリスは外国語やマナーだけではなく、王家の歴史や王族として正しい振る舞いなどを身に付けるべく厳しい王妃教育を受けている。

 エリスは幼いころよりエドワードの婚約者候補としての教育を受けていたが、それはあくまで王族の配偶者となるための教育に過ぎない。王妃となるにあたり、さらなる教育が必要だった。

 婚約披露パーティー以後は、エリスも王族として扱われることになる。エリスの王妃教育も、ますます厳しいものになってきた。



 今日、エリスは、ハーバート侯爵夫人のもとを訪れた。

 ハーバート侯爵夫人とは、現国王の実妹であり、エドワードの叔母にあたる人物であり、エリスに王室に関わるしきたり等を教える教師でもあった。

「ハーバート侯爵夫人」 

 午前中の講義を終えたエリスは、ハーバート侯爵夫人と食後のお茶を楽しんでいた。

「二人きりの時はそのような堅苦しい呼び方はやめてちょうだい。私たちはすでに親戚も同然なのですから」

「はい、それでは『叔母様』」

 ハーバート侯爵夫人は満足そうに頷いた。

「叔母様にお伺いしたいことがあります。エドワード様のことなのですが……最近、女性を宮殿に匿っているという話を聞いたのですが、ご存じでしょうか?」

「エドワードがですか?」

「はい」

 ハーバート侯爵夫人の様子からすると、本当に知らないようだった。そこでエリスは、マーガレットから聞いた話をハーバート公爵夫人に伝えた。

「……エドワードにも困ったものですね」

 ハーバート侯爵夫人は額に指をあて、首を左右に軽く振った。

「あの子は優しすぎる子ですから、困っている人を見て放っておけなかったのでしょう。あなたも覚えていると思いますけど、幼い頃から宮殿に迷い込んだ動物を見つけてきては面倒を見ていたくらいですから。きっと、それと同じ感覚なのでしょう」

「だと……いいのですが」

 エリスは不安そうな表情をしてみせた。

「あなたはエドワードの婚約者で、将来、王妃になるのです。堂々としていればいいのです。ただ……この時期にそんな話が出てくるのはよろしくありませんね。私がエドワードに言っておきましょう」

「お待ちください、叔母様! その……噂の出どころをエドワード様に知られたくないのです。このことを教えてくださった方に迷惑がかかってしまいますので……」

 確かに、ハーバート侯爵夫人がエドワードに直接問い質してもらうのが一番手っ取り早い方法だ。しかし、エリスには確かめたいことがあった。

「わかりました。秘密裏に調べさせましょう」

「ありがとうございます、叔母様!」

「では安心したところで午後の講義を始めましょう」