筆記試験を終えたエリスは、試験官である教師から、実技試験の準備が整うまで待合室で待機するよう指示を受けた。

 廊下に出ると、そこにはクロードがいた。

「そろそろ試験が終わる頃かと思いましたので、こちらでお待ちしておりました。待合室までご案内します」

「ありがとう」

 エリスは、無言のままクロードの後について待合室に向かった。

 待合室に入ると、エリスはクロードに話しかけた。

「何も聞かないの?」

「何をです?」

「だから……試験の出来とか……」

「顔を見れば大体見当がつきます。上手く行ったみたいですね」

「上手く行ったというか……上手く行きすぎというか……」

「そうですか。それは良かった。それならば、満点は確実ということですね」

「満点……と言われるとちょっと……」

 エリス自身、満点を取れた自信はある。しかし、思わぬミスを犯してしまっている可能性と、自信たっぷりの素振りをクロードに見せたにも関わらず、満点が取れなかった場合、クロードにどんな嫌味を言われるかわからないため、あえて控えめな態度を取っておいた。

 クロードが何か言いかけたとき、待合室のドアがノックされ、実技試験の準備が整ったことを知らされた。



 実技試験の会場として案内されたのは、講堂であった。

 講堂でエリスを待ち構えていたのは、筆記試験のときとは異なる教師であった。

 この教師がエリスの相手をするのだろうか? とても剣を扱うような感じには見えない。

「実技試験では、この模造刀を使用します」

 エリスは、教師から渡された模造等を軽く振ってみた。

(あら? 軽い……)

 実技試験で使用される模造刀は、クロードとの特訓で使っていた模造刀と比べると、羽のように軽かった。

(これだったら実技試験も何とかなるかも……?)

 エリスは淡い期待を抱いた。実は、剣術の稽古においてエリスは、最後までクロードから合格点をもらうことができなかった。

 しかし、エリスとて、クロードのような剣の達人を相手に三か月間、みっちりと剣の特訓を積んできたのだ。クロードの求めるレベルに達していなくても、目の前にいる教師相手ならば、どうにかなりそうだった。

「準備はよろしいですか」

「はい!」

 エリスは、講堂に響き渡るような大きな声で元気よく返事をした。

「入ってきなさい」

 教師は講堂の入り口に向かって声をかけた。

(え……?)

 エリスは教師の声に釣られ、入り口に目を向けた。

「失礼します」

 入り口から入ってきたのは、一人の青年であった。

「彼が君の実技試験の相手をします」