とうとうこの日が来てしまった。

 エリスは今日、寄宿学校の編入試験を受けるためにシュヴィーツへ旅立つ。

 思えば、あっという間の三か月間であった。クロードがエリスに求めるレベルは非常に高く、毎日毎日課題をこなすだけで精一杯だった。

(こことも今日でお別れね……)

 三か月前に来たばかりの館であったが、今では生まれてからずっと生活してきたかのような愛着が沸いており、名残惜しかった。

「アーサー様、出発の準備が整いました」

 ドアがノックされ、クロードがドア越しにエリスに声をかけてきた。

「わかった。今、行く」

 アーサーことエリスは、そう返事をすると、部屋を後にした。



 表に出ると、馬車が停まっていた。シュヴィーツへはこの馬車に乗って行くようだ。

 エリスが、クロードに促されて馬車に乗り込むと、程なくして馬車は動き出した。

「寄宿学校に着くまでは時間がかかりますから、お休みになったらいかがです?」

「ありがとう。でも今はまだ眠くないんだ」

「あまりご無理はなさらず。昨晩は遅くまで起きていらっしゃったようですから」

「知っていたの!?」

「ええ、ドアの隙間から明かりが漏れていましたから」

 するとエリスは、観念したかのように言った。

「実は……緊張して全然眠れなかった」

「やはり起きていらっしゃいましたか。しか

し、何を緊張することがあるのです? この私があんなにも完璧な試験対策をしたのですよ? 試験が楽しみで眠れなかったというのなら、理解できますが」

「いや……試験、特に人生に大きく関わってくるような編入試験に、緊張しない方がおかしいんじゃないか?」

「申し訳ありません。やはり全く理解ができません。私にも学生時代がありましたが、緊張した覚えはありません」

「ああ、そう……」

 この件に関し、クロードに何を言っても無駄だろうとエリスは悟った。

「緊張で眠れないくらいでしたら、最後の仕上げをしてみたらいかがでしょう? 」

「最後の仕上げと言うと……?」

「これを」

 クロードがエリスに差し出したのは、分厚い紙の束だった。

「?」

「今回の編入試験の予想問題集です。お目覚めになられた後にと思っておりましたが、お休みになられないなら丁度いい。到着するまでに最低二回はできるはずです」

(寝たふりでもしておけばよかった……)

 エリスは、正直に話してしまったことを後悔した。