「はい、終わりましたよ」

 クロードに声をかけられ、エリスは急に夢の中から引き戻されたような感覚に陥った。

 最初に切り落とされた毛束を見た瞬間からエリスは、自分の身に起こっていることを、他人事のように感じていた。

 しかし、うなじに手をやったとき、エリスはそれが夢でも他人事でもないことを思い知らされた。

 エリスは、他の貴族の娘たちと同様に、幼い頃から髪を長く伸ばしていた。貴族の娘なのだから、髪を長く伸ばし、装いに合わせて結い上げるのはごく自然なことであった。

 長いこと自分の身体の一部であったものが、何の前触れもなく、突然なくなった……エリスは、特に髪の毛に対して大きな思い入れはないつもりであったが、このような思いがけない形で失ってしまった場合は別だった。

「鏡を……」

 エリスの声は、心なしか震えていた。

「どうぞ」

 クロードが差し出した手鏡を受け取ったものの、エリスはすぐに自分の姿を鏡に映そうという気にはなれなかった。

 それでもエリスは、勇気を奮い立たせるかのように大きく一呼吸し、鏡を覗いた。

(……!)

 鏡の中にいるエリスは、まるで別人のようであった。

 肝心の髪は、エリスが想像していたのよりもずっと短く、顎のラインで切り揃えられていた。ここまで髪が短いと、少年のようにも見えなくなかった。



「こちらの部屋をお使いください」

 クロードは、エリスを寝室に連れて行った。

「部屋に着替えをご用意いたしました。そちらにお着替えください」

 必要なことだけをごく簡単にエリスに伝えると、クロードはエリスを部屋に置いて、自分はさっさと部屋を出て行ってしまった。

 エリスは、ドアが完全に閉まる音を聞き、部屋に自分しかいないことを確認すると、倒れ込むようにしてベッドに突っ伏した。

(疲れた……)

 思えばエリスは、今日一日だけで次から次へと様々な出来事に翻弄された。だが、今日という日はまだ終わっていないし、エリス自身もまだ何かありそうな予感がしていた。

(そう言えば、クロードが『着替えろ』って言っていたけど……)

 エリスは体を起こし、周囲を見渡した。すると、ライティングデスクの上に、畳まれた衣服が置かれているのを見つけた。

「これね……」

 エリスは、衣服を手に取り広げてみた。

「これは……どういうことなの!?」

 エリスは衣服を手にしたまま、廊下に走り出ていた。

「クロード、クロードはどこなの!」