「あ、あの……」

 エリスは思わず声を上げていた。

「何でしょうか? 先ほど私の許可なく声を出すな、と申し上げたはずですが」

「申し訳ありません。その……私、何が何だかわからなくて……」

 エリスは、クロードに怒られるのではないかとびくびくしていた。

「それもそうですね。よろしい。それでは、一つだけ質問にお答えしましょう」

「あ……ありがとうございます」

 エリスとクロードは、主従の関係にあり、主はエリスのはずであるが、何故だか今は、主従が逆転しているような感じだった。

「今日からここで生活するとおっしゃいましたが、いつジョナサン王子を探しに行くのですか?」

「ああ、そのことですか」

 クロードの口調には、『つまらないことを質問するな』といった雰囲気が感じ取れた。

「三か月後です。これから三か月間は、こちらで学んでいただきたいことがございます」

「学んでいただきたいことって……?」

「質問は一つだけ、と……」

「も、申し訳ございません!」

 クロードにぎろりとにらみつけられ、エリスはとっさに謝った。

「では、続けさせていただきます」

「はい……」

 エリスは大人しく従うしかなかった。



 エリスの背後で、カチャカチャと金属がぶつかり合うような不気味な音がしている。

 本当ならば、今すぐにでも後ろを振り返って、クロードが何をしているのかをこの目で確かめたい。

 だが、今のエリスは、動くことも話すことも禁じられている身である。身をこわばらせて、次に何が起こるのかを待つことしかできない。

 極度の不安の中でエリスは、物事を悪い方向へ悪い方向へと考えていた。

 ハーバート侯爵夫人は何を計画しているのか、そして、今日出会ったばかりのこのクロードという男は一体……?

 そんなことを考えているうちに、金属音が止んだ。どうやらクロードは、準備を終えたようだった。



 準備を終えたクロードは、エリスの左横に立つと、エリスの横髪を一束掴んだ。

(……!)

 エリスは驚いて反射的に身をよじろうとしたが、クロードにしっかりと髪の毛を掴まれているので、身動きが取れない。

 そして、間もなくして、ジャキジャキという音とハサミが開閉する音が聞こえ始め、それと同時に、髪の毛が引っ張られている感覚もなくなってきた。

 エリスが恐る恐る横目でみてみると、エリスの横髪は、肩の上あたりでばっさりと切られていた。