ハーバート侯爵邸にてエリスを迎えたのは、ハーバート侯爵夫人だけではなかった。

 そこには、エドワードの二人の姉、モンタギュー公爵夫人とルイーズ王女も同席していた。

 ハーバート侯爵夫人だけかと思っていたエリスは、三人の高位の女性が一堂に会しているのを見て、少々戸惑った。

 促されてエリスが着席すると、ハーバート侯爵夫人が口を開いた。

「まずは……この度のこと、あなたとあなたのご家族には大変申し訳ないことをしてしまったと、深く反省しております」

 ハーバート侯爵夫人の突然の謝罪に、エリスは驚き、咄嗟に言葉が出なかった。

 そんなエリスの様子を気にせず、ハーバート侯爵夫人は続けた。

「あなたから相談されたときに、厳しく対処しておくべきでした」

 エリスはうつむいたまま、ハーバート侯爵夫人の言葉を聞いている。

「それにしても……エドワードにも困ったもの。あの年齢になってもまだ公よりも私を優先するとは。どうやらあの女の血を濃く受け継いでしまったようね……」

「あの女……」

 エリスは無意識のうちに呟いてしまった。

 エリスには、『あの女』が誰なのか見当がついていた。エドワードの実母である現王妃である。

 実は、エドワードと二人の姉、モンタギュー公爵夫人とルイーズ王女は異母姉弟であった。現王妃は、平民出身でもともとは現国王の妾であった。それが前王妃の死去に伴い、王妃となった。そして、この場にいる三人の女性たちは、現王妃のことを忌み嫌っている。

「こんなとき、ジョンがいてくれたら……」

 モンタギュー公爵夫人が口を滑らすようにして言うと、

「お姉さま! それは……」

 とルイーズ王女が慌てた様子で止めた。

「ジョンというのは……ジョナサン王子のことでしょうか……?」

 エリスはやっと口を開くことができた。

「そうです。エドワードの兄のジョナサンのことです」

 ハーバート侯爵夫人が答えた。

 ジョナサンは、エドワードの兄であるが、モンタギュー公爵夫人とルイーズ王女と同様、前王妃の息子である。

「確か……ジョナサン王子はお亡くなりになったと……」

「いいえ、ジョナサンは生きています。ただ、今は、行方がわからなくなっているだけです」

「では、もし、ジョナサン王子がお戻りになられたら……」

 ハーバート侯爵夫人は、エリスが漏らした言葉を引き継ぐように頷いた。

「次期国王はジョナサンです」