「エリス様、おめでとうございます」

「婚約披露パーティー楽しみにしております」

 仲の良い令嬢同士が集まるお茶会で、令嬢たちはエリスに祝いの言葉をかけた。

 名門貴族であるスチュアート伯爵家の娘エリスは、第二王子のエドワードとの婚約を発表したばかりだった。

 婚約者のエドワードは、第二王子であるが、第一王子のジョンが行方不明であるため、実質的には皇太子の立場にあるとされている。したがって、このまま何事もなければ、エリスは将来、王妃になることが約束されている。



 婚約披露パーティーの日が近づいてきたある日、エリスは侍女を連れ、街に来ていた。

 婚約披露パーティーで着る予定のドレスを受け取りに来たのである。

「せっかくだからお茶でも飲んでいかない?」

 エリスは侍女のメアリーに尋ねた。

「そろそろお帰りにならないと……」

「それはわかっているけど……。もう少ししたら、私は自由に外を歩けなくなるのよ。もうこれが最後になるかも。ねえ、いいでしょ?」

 エリスに目を潤ませながらお願い事をされると、断れなくなる。

「少しだけですよ」

 とうとう――というか、いつものことだが、メアリーはエリスに根負けした。

「どうもありがとう! 大好きよ」

 エリスは破顔した。



「ねえ、あそこのカフェにしましょう!」

 エリスは、今にも走り出しそうな様子で、かなり早足で歩いている。

 まだ少女と言って差支えの無いエリスが、もうすぐエドワードと結婚し、そして国母となる。メアリーにはまだ実感がなかったが、エリスのそばにいられるのもあと少しかと思うと寂しくもあった。

「エリス様、お待ちください!」

 メアリーも早足になって、エリスを追いかけた。



「そこのお嬢さん」

「私のことですか?」

 エリスは、カフェの手前で占い師の老婆に声をかけられた。

 街で知らない人に声をかけられても、相手にしてはいけないとメアリーに口を酸っぱくして言われており、エリスも普段はその言いつけを守っているのだが、不思議なことに、この老婆の言うことは聞かなくてはならないような気がした。

 エリスは、磁石で引き寄せられるように老婆の前に立った。

 老婆は先ほどから水晶玉の中をじっと見つめている。

「あの、おばあさん、私、あまり時間がないの」

「あんた、近い将来に大変なことが待ち受けているよ……」

 老婆が声を振り絞るようにして言った。

「大変なこと? もしかして『結婚』のことかしら? 確かに『結婚』は大変なことよね」

「いや……もっと別なことだよ。あんたの人生を変えてしまうほどのね……」