絵が完成したのはその三日後だった。下書きを描いた翌日からバイト三昧で完成をまだ見ていない私は、授業が終わると駆け足で美術室に向かう。
 すでに香椎先輩がいて、後から高嶺先輩が宮地さんを連れて来るという。

「バイト、大変そうだな」
「これでも融通が利く方なんですけどね。それより絵はどうなりました?」
「慌てんなよ。宮地さんが来たら見せるから」

 ちょうど美術室の扉が開いて高嶺先輩と作業着姿の宮地さんが入ってきた。会うのはこれで二度目だが、どこか顔が強張っている。

「母校とはいえ、何十年も前の話だ。緊張するさ」
「外見に似合わずね」
「千暁、お前って奴は……」
「はいはい! 集まったことだし、お披露目するか! 香椎、準備!」
「もうできてるよ」

 香椎先輩が中央にあるイーゼルを指さす。白い布がかけられたその下に、カンバスが置かれている。私もまだ見ていない、ベンチの灰を混ぜて描いた絵。

「気に入ってくれるといいんだけど」

 高嶺先輩がそっと布を外す。現れた絵に、私は息を呑んだ。

 見慣れた校舎と植え込みを背景に、どんと構えたベンチがある。解体前は劣化で灰色と化していたベンチも、生き返ったようにどっしりとした焦げ茶の木材と緑色の脚がついていた。
 そこに座るセーラー服姿の少女は、枝垂れるほどのスズランの花束を胸に抱え、口元を隠して笑っている。小鞠のようなスズランは、白と淡いピンクで愛らしく飾られていた。
 更に風に吹かれて髪がなびく中、舞う花びらの他に淡い水色で描いた涙も混じっている。下書きの段階ではわからなかった、香椎先輩らしい工夫だった。

 なによりあの中の、スズランを自分が下書きをしたと思うと、なにか込み上げてくるものがあって、思わず唇を噛んだ。