「二人とも手伝ってくれ」
「は、はい! 何をすれば……」
「これを焼却炉近くに移動させてくれ。入れるのは宮地さんにやってもらうから」

 先輩の指示で、解体された五基分のベンチの木材を少しずつ移動させる。ひっかき傷や錆びで一部変色しているのは、何年ものの間にいろんな人が使ってきた証だ。

 ごうごうと燃え盛る焼却炉に、木材が次々と入れられていく。これをすべて炭と灰になるまで燃やし、余分なモノを省いて粒子を揃える作業に二週間ほどかかるという。

 どうしてここまでしてくれるのか。不思議に思っていると、香椎先輩にベンチの絵を依頼したのが宮地さんだと教えてくれた。

「俺が作ったベンチだったんだ。花井先生――元理事長が気に入ってくれて、六基を寄付した。ただ年を重ねるごとに劣化して、そのうち一つが雷で壊れちまったんだよ。丁度ここいらが潮時だったんだ。俺にもう一度同じものを作る力はねぇ。だから廃棄処分をすることになったんだよ」

 しかし、丁度その頃に美術部の二人が灰を求めてこの工房に訪れた。絵に混ぜると聞いて驚いたが、宮地さんも興味がわいて灰の調整を引き受けるようになった。
 文化祭の絵に使われた花井理事長の遺灰は、話を聞いた時は驚いて整理がつかず、一度は断ったらしい。それでも恩師の遺言だからと、覚悟を決めて遺灰に触れた。

 そしてここからは、一休み中の宮地さんが私だけに教えてくれた。

「誰だって複雑な事情を持ってる。先生だって、在校生に描かせることを躊躇ったと思う。それでもアイツらは『誰かに届く絵を描く』と、先生の前で誓ってたよ。息を引き取る数時間前の話だ」
「宮地さんもその場に?」
「遺灰を使わせてもらうんだ。先生が好きだったスズランの花束を持って一緒に行った。……悠人の目についてはどこまで知ってる?」
「……二年もしないうちに、失明するかもって」
「そのせいなのかもな。あの後もウチで灰を作るときは、解体から焼却炉に入れるまで手伝いにくるんだ。……ほら、見ろよ」

 宮地さんが顎で指す方を見ると、焼却炉の前でじっと手を合わせる香椎先輩と高嶺先輩の姿があった。

「いつもやってんだ。灰を使う絵を描くことは供養で、人もモノも変わらないんだとよ」