え――?

「生まれつきらしくて、あと二年もしないうちに失明するって言われてる。普段の生活や授業中はメガネをかけているけど、絵を描く時だけは外してる」

「失明……? 嘘、ですよね?」
「……嘘じゃないから、浅野に話したんだよ」

 真剣な表情で、声を震わせた先輩を見て、私は口をつぐんだ。
 香椎先輩が失明する手前だと聞いて、驚きが隠せない反面、どこか納得している自分がいる。

 初めて会った時、息がかかるほど近い距離で顔を見られたことがあった。あの時、高嶺先輩は「顔を覚えられない」と濁していたけど、本当は「あの距離でなければ認識できなかった」のだ。
 『欠けているから敏感なのかもしれない』と言っていたのも、視力で欠けた感覚を他で補っているから。

 高嶺先輩は更に続けた。

「ゴメンな、黙ってて。でもこれは本当なんだ。一部の奴しか知らない。もう浅野と会ってしばらく経つのに、アイツの通院とお前のバイトの日が被ってたから油断してた」
「……先輩は、どうして私を気遣うんですか? 今のだって、誤魔化せましたよね?」

 すぐに何でもないと言ってくれていたらこんな話はしなかったし、私だって聞き流すことができたのに。

「いつかは言うつもりだったと思う。その前にお前が気付いたかもしれないし。あんなに至近距離で顔の確認をするのは初めて見たからな。でもそれくらい、香椎はお前に興味を持った。スケッチブックを渡すくらいにさ」

「……そういえば香椎先輩、この間私の絵を見て触れただけで描いている場所とか、感情とか読み取ってました」
「浅野もやられたか」

 ハハッと苦笑する。どうやら先輩も同じことをされたらしい。

「どうしよう……私、前に第六感持ってるんですかとか、言っちゃいました」
「アイツは気にしないよ。元から才能の塊だったんだから、持っていてもおかしくない。絵ことじゃないときも時もすごかった。数学の授業で図形の面積を求める問題があってだな――」

 香椎先輩の話をするときの高嶺先輩の表情は、いつも活き活きとしている。一度だけ、高嶺先輩と三年生が話しているのを見かけたけど、無理やり笑顔を作っているようにも見えた。