ようやく見つけた美術部の入部を断られて数日が経っても、私が愕然と落ち込むことはなかった。

 それは絵について知識がないからこそ、周りに比べられる闘争心が私にはないからかもしれない。

 中学の時に絵画コンクールで、一度だけ風景画を描いて入賞したことはあるけれど、中学生らしくベタベタと色を重ねた、塗り絵のような絵だった。芸術コースや香椎先輩に比べたら雲泥の差で、並べるのも憚られる。むしろ並びたくない。

 もし、闘争心以外の理由で落ち込んでいないのだとしたら、気まぐれに美術室に顔を出しているからだろう。

 あの日以来、バイトがない日の放課後に第八美術室に行くことが増えた。
 といっても、描いている先輩たちの近くで描いているのをずっと見ているだけ。出入り口に入ってすぐに用意された椅子が、いつしか私の特等席となっていた。

 香椎先輩は、一枚のカンバスを完成させる中でも、鉛筆で描く下書きに時間をかける。
 誰も見ていないであろう隅から隅まで、細かく書き込んでから色を決め、灰と混ぜて繊細かつ丁寧に塗って一枚の絵を仕上げるのだ。
 アクリル絵の具の下に隠れた下書きがギリギリ見える色の濃さは、一番見せたい箇所だけを限定しているという。だから先輩の絵を見る時はいつも目がしばしばする。

 高嶺先輩もクロッキー帳に柄の短い鉛筆を持ってひたすらに描いている。何度か見せてもらったけど、一番気に入っているのは物置状態の美術室を描いた鉛筆画らしい。他にも人物像や動物といった、動きのあるスケッチが多かった。

 同じ空間で、別々の作業をする。休憩の際に言葉を交わす程度で、終始静かな時間が流れていた。