「お前が熱弁し、涙まで流してくれたあの絵は、亡くなった理事長の遺灰を絵の具に混ぜて描いている。平和の意味を持つ花、機体に纏う風、あと空だな。亡くなる前にどんなものを残したいか聞いて、俺が描いた。……美術部が嫌われているのは、そういうところなんだよ」

 香椎先輩が淡々と説明していくのを、私は首を傾げて聞いていた。確かに驚いたし、寒気が襲った。遺灰と聞いていい気にはならないだろう。
 ――だからって。

「納得できません」

 学校側が美術部を快く思っていない理由と繋がらない。
 先輩の話や作品の説明書きが正しければ、亡き理事長の遺言を美術部が遂行したに過ぎないのだ。
 私がそんなことを口にすると思っていなかったのか、高嶺先輩は苦笑いをした。

「あ、浅野さん、思ってたより頑固だね」
「納得できないものはできません。だって遺言でしょう? 指名が美術部だったならやるしかないじゃないですか。それに学校側は芸術コースに振ることだってできたはずです。学校側が一方的に嫌味を言ってるだけですよ」
「それは……そうだけど」
「――ハハッ! いいよ、この際全部話そうぜ。高嶺」

 今までほぼ無表情だった香椎先輩が力が抜けたように笑う。前のめりだった体勢も、後ろの机に寄り掛かるようにして座り直した。

「いいのか?」
「俺はいいよ。どうせいつか知ることだし」

 香椎先輩の顔がどこかスッキリしたように見える。高嶺先輩も小さく溜息をついて、私と向き合った。

「学校が芸術コースにこの件をまわさなかったのには、二つ理由がある。一つは遺灰を使った絵――供養絵画だったこと。絵の具に灰を混ぜる手法はある。でも遺灰を混ぜるってことに抵抗があった。なんせ遺灰の主は学校の名誉理事長。知人の遺灰を使って失敗でもしたらって考えたら、周りから何を言われるかたまったもんじゃない。そしてもう一つは、理事長直々の指名だったからだ」

「指名……香椎先輩が指名されたってことですか?」
「浅野さん、ショータっていう芸術家を知ってるかい?」
「……あ、テレビの特集で何度か」

 確か高校卒業後は海外で修行し、日本に帰国後は美大の講師を持ちながら個展を開催、更に依頼は三年先まで埋まっているという、大忙しの若手芸術家だと聞いたことがある。
 本名は『香椎章大(あきひろ)』――香椎?