話し終えると、高嶺先輩は両手で顔を覆った。その隣で香椎先輩は、前のめりになって問う。

「大体わかった。それで――お前が見た『明日へ』は、どんな世界だと思った?」
「世界……」

 明るい希望のある世界。平和を願う世界。残酷な争いの世界。
 そんな言葉が頭の中で飛び交う中、私は口を開いた。

「耳を傾けてほしい世界、でしょうか」
「耳?」

「聞いてほしいって意味です。周囲の無機物の音と建前で成り立っている世の中にもっと耳を傾けてほしい。飛行機と少女に持たせた花の意味は、平和についてもっと考えてほしいのだと思いました」

 香椎先輩は唸る。自分の思っていた答えじゃなかったから、反応に困っているのだろうか。
 オロオロしていると、ずっと顔を手で覆っていた高嶺先輩が突然、顔を上げて香椎先輩の背中を思い切り叩いた。バシンッといい音が教室内に響く。突然喧嘩でも始まったのかと驚いていると、高嶺先輩は目元を赤く腫らし、満面の笑みを浮かべていた。

「――っヤバくねぇ!? お前の描いた絵がこれだけ深堀りされたんだぞ!」
「わぁってんだよ、叩くな」
「だってさ!」
「落ち着けアホ」

 喜びを噛みしめている高嶺先輩にまた手刀が入ると、腹を抱えて丸くなる。話が読めない私がこの惨状に引いていると、香椎先輩は言う。

「お前、作品名の下の説明書きを読んだか?」
「説明書き……?」

 作品名は見たけど、説明書きなんて書いてあっただろうか。それより先に絵に目を向けてしまったから、見ていなかったかもしれない。

「その様子だと読んでねぇな。それであの熱弁かよ」
「どういうことですか?」
「これだよ」

 高嶺先輩は脇腹を抑えながら、スマートフォンの画面を見せてくれた。画面には文化祭で見た絵が写っており、その横のプレートに『明日へ』とタイトルが大きく書かれている。その下に小さな字でこう書かれていた。

『故・花井(はない)文江(ふみえ)名誉理事長の遺言により、絵の具に遺灰を混ぜて製作しております。ご冥福をお祈り申し上げます。』

 花井文江――確か、この学校の創設に関わった一人で、書いてある通り理事長を経て去年亡くなったと学校のホームページに書いてあったのを思い出す。それよりも私は、理事長の名前の次に書かれたモノに目を疑う。

 ”遺灰”――たった二文字を見て、ぞっと寒気が走った。

「気味が悪くなっただろ」

 私の口が開く前に、香椎先輩は続けた。