「……寒い」
「そんなに風入ってねぇから。つか、買いすぎじゃね?」
「選択肢は多い方がいいに決まってる。えっと……名前聞いてなかった。名前は?」
「あ、浅野(あさの)です。一年二組で、進学コースです」
「浅野サンね。とりあえず水。()き込んでたから飲んどいて」

 そういって、器用に指で持っていた二本のペットボトルの一つが私の前に差し出された。「指が()るから早くして」と催促されて受け取ると、満足そうに口元を緩めた。

「あと紙パック。何が好き?」
「え、あの……お水で充分なんですが……」
「水はさっきのお詫び。紙パックは高嶺のおごり。今飲めとか言わないから」
「え、それは聞いてな――」
「どうせ詳しい説明をされずに連れてこられたんだろ? だったら高嶺のおごりで充分。俺達は残り物でいいから、先に選んでくれ。高嶺、後で四八〇円な」
「おい香椎、その金額だと水代も入ってるよな?」
「……じゃあミルクティー、いただきます」

 ミルクティーを受け取ると、おごりについて聞いてくる高嶺先輩の頭にウーロン茶を乗せて黙らせた。香椎先輩はペットボトルの水をカンバスの近くに置いて戻ってくると、椅子を二つ持ってきて渡す。
 この二人、案外仲が良いのかもしれない。

「それで高嶺、どうして新入生連れてきた?」
「そうそう! 実は彼女、職員室で美術部に入部したいって先生に話してたんだよ」

 美術部の言葉に、香椎先輩が私を二度見した。先程と打って変わって目の色が変わると、紙パックにストローを刺そうとする手を止める。

「入部って……高嶺、お前正気か?」
「話だけ聞こうと思って連れてきただけ。俺だってびっくりしてるんだよ」
「それでコイツまで巻き込むつもりじゃないよな」
「それは彼女次第、だけど……とりあえず現状を伝えないとさ」

 話が見えない。
 一人でおろおろしていると、高嶺先輩が気付いて説明してくれた。

「浅野さんが探している美術部、一応はあるんだよ。ただ完全に学校からは非公式扱いで、目の上のたんこぶなんだ」
「目の上……学科と被っているからですか?」
「それもあるけど、部員が俺と香椎だけだからかな。いろいろ問題児なんだ、俺たち」

 高嶺先輩は気恥ずかしそうにヘラっと笑った。

 目の前に座る二人の先輩の話を聞きながら、貰った水を飲み込んで頭の中で整理する。そもそも、学校に許可なく部活動を堂々としていても指導対象にならないのだろうか。

 それに問題児だと言われてもあまりピンとこない。距離感がおかしいのはともかく、ごく普通の在校生にしか見えなかった。