石造りの砕けた壁から砂ぼこりが舞う。
むせ返るような臭いと色の中で、フレイムは何度も服と髪をはたいた。
埃と塵が舞い、咳込みながら今の状況を把握する。
「ぐ、私としたことが、角度を見誤るとは……まぁいい、アクシデントはつきものだ。むしろ、よくもまぁ咄嗟にプランBなぞ浮かんだものだ。さすが私」
体を起こし周りの様子を確かめると、既に下に兵士が集まって来ていた。
思った以上に行動が早い。
さすがのフレイムも、この状況にはお手上げだ。
変に抵抗して事態が悪化すれば、それこそ旅に支障が出る。
「いかんな、目立ちすぎたか……。そう言えば、勇者一行が絡んでいるのだったな……。その勇者一行とやらはどこにいる?」
兵士たちが建物を囲んでいる中、ひとりの少年が前に躍り出て、フレイムのことを呼び止める。
「なぁ、いるんだろう? アンタに話がある」
フレイムはゆっくりと下を見下ろす。
そこに立つのは、マントを羽織り、剣士の装束を身に着けた黒髪の少年。
恐らく、イリスとそう年齢は変わらないだろう。
だが、最も驚くべきなのは彼の"声"だ。
言葉遣いに少し荒々しさがみられるも、不思議と耳を傾けてしまうような声調。
一言一句に聞き惚れる、というべきか。
「……なにかな? 今私は忙しいんだが」
「アンタに逃げ場はねぇ。俺はアンタと……"神託斬り"に用があるんだ!」
その言葉を聞いた瞬間、フレイムの直感が、脳内でざわめく。
「私と……あのイリス・バージニアにか?」
「そうだ、どうしても会いたいんだ……まずはアンタと、話がしたい」
真っ直ぐな瞳だった。
正義と狂気が入り混じり、今にも燃え上がりそうな輝きを秘めている。
「……いいだろう! このフレイム・ダッチマン、名も知らぬ君の要望に応えよう!!」
そういうと、軽やかに地に舞い降りる。
フレイムの口角は不気味なまでに吊り上がっていた。
無論、少年はその真意を知る術はない。
「話がしたいのだったな?」
「あぁ!」
「ならば、ここから1番近くのカフェでどうかな?」
「……わかった。ちょうど今、あのカフェに仲間がいるから。あそこでいいか?」
「君に任せよう」
少年は踵を返し、兵隊長であろう人物に指示を出している。
困り顔の兵隊長は暫く考えた後頷き、兵士たちにその場を離れるよう指示した。
これは撤退の指示だ。
その少年は、兵隊長に命令したか頼んだかで、その指示を出させたのだと、フレイムは感じ取った。
「ほう、その歳で軍隊の命令系統のかなり上位に食い込んでいるらしいな」
「俺は軍人じゃあねぇよ。あと、あの人は俺の死んだオヤジの部下だった人。昔からの知り合いでね……指示っていうかちょっとした頼みをしただけさ。」
少年は疲れたように肩を鳴らす。
妙なコネクションを持つこの少年にフレイムは興味を持った。
どれだけ見ても、なんの変哲もない少年に、どうしてここまで魅力を感じたのか。
――――少し、確かめてみたくなった。
「……君の名を聞いていなかったな? さっきも言ったと思うが、私はフレイム・ダッチマン。貴族兼賞金稼ぎだ」
「……金があるのに賞金を稼ぐのか?」
「趣味だ、というか、暇潰しだ。……で? 君の名前は?」
少年は立ち止まり、フレイムと真っ直ぐ向き合う。
「マルク・ザイルテンツァー。仲間と一緒に旅をしてる」
「マルク……、君はもしかして……『神託の光剣使い』と言われている……少年かね?」
「あ~……、うん、なんで言われるようになったかわかんないけど」
この問いがフレイムを確信へと導いた。
コイツが話題になった"勇者"であると。
「ほう、これはこれは……勇者殿であったか。この街にはどうして? 確かこの世の魔物を殲滅するために旅をしているとは聞いていたが」
「まぁそんなところさ。だけど……イリスって奴に、俺の大切な仲間が……」
「そうだったか……これは失敬。……おや、兵士たちの撤退も済んだようだ。では、我々も行こうじゃあないか」
そう言って、仲間が待っているというカフェに足を踏み入れる。
「ほう……中々いいカフェだな」
小洒落た雰囲気の内装に流れる小粋な音楽。
自然と背筋が伸び、上品な時の流れを感じ取れる。
「あのこの隅っこさ。おおい! お待たせ」
隅のテーブルには、女性3人が肩を並べて座っていた。
そして、マルクの姿を見るや、表情が変わる。
「あぁ、お兄様! お怪我はありませんか!?」
「マルク! また勝手にひとりで歩き回って……ッ!」
修道服と拳法服に身を包んだ少女ふたりが立ち上がる。
見た感じ、修道女と格闘家だろう。
修道女はマルクの妹なのか、お兄様と呼び慕っているようだ。
そんな修道女は安堵の色を浮かべ、格闘家はこめかみを押さえながらため息を漏らしている。
「まぁまぁ、頭よりも先に身体が動く、というのはマルク君の本質。もう皆わかっているじゃない。だから、もう許してあげましょ? ね?」
こちらは、落ち着いた雰囲気をもつ女性だ。
年はパーティの中で最年長だろう。
手に持っているのは古い魔術書だ。
「ご、ごめんよ皆。居てもたっても居られなくて。……神託斬りの関係者を連れてきた」
「ご機嫌麗しゅうレディたち。私はフレイム・ダッチマン。神託斬りのことを知っている男だ」
彼女らがフレイムの姿を見た瞬間、場の雰囲気がガラリと変わった。
気まずそうに俯く修道女と格闘家、そして、じっとフレイムを見定めるように見据える魔術師。
しかし、そんな雰囲気は一切気にせず、近くに置いてあった椅子を持ってきて座る。
「ずいぶんと女性が多いね? マルク、君の本命は誰だ? その人のスリーサイズは当然知っているんだろう? ん?」
「は!? アンタいきなりなに言うんだよ!」
「バババ、バッカじゃないの!? ……まだ知られて、ないわよね?」
「お、お兄様になら……別に」
「あらあら」
場が変な意味で和む。
非常に良し。
とりあえず、簡単な自己紹介をしてくれた。
修道女はマルクの妹で、名前をアイリという。
格闘家はリャン。
魔術師はハンナ。
そして、数日前にイリスによって斬られたのは、ロイドというマルクにとっての大親友だった男らしい。
「なるほど、では目的は復讐かな?」
「いや、俺は復讐なんて望んじゃいない」
マルクは即座に否定した。
ほか3人もマルクに同調し頷く。
強い眼差しだ。
それだけで感じる。
このマルクという少年との強い絆を。
「じゃあ、どうしたいんだ?」
フレイムは笑みを絶やさず、そう聞いた。
マルクは、さもそれが当然のように答える。
「決まってるだろ、あの娘に、神託斬りなんてやめてもらうんだ。あの娘の凶行を止めようと、ロイドは死んだ。すごく悔しいし、悲しい……。だが、あの娘がそうしてるのはきっと、なにかワケがある。それを突きとめて、やめさせる!」
その言葉に、嘘偽りはなかった。
聞いているだけでもわかる。
仲間を殺されたにも関わらず、マルクはイリスの身を案じているのだ。
そして、心底イリスを救いたいと思っている。
「相手はきっと、君や仲間たちに攻撃してくるだろう。それでもか?」
「それでもだ! 人殺しなんていう、間違った道を進んでる女の子を、俺は放ってはおけない!!」
そのためなら、どれだけ体を張ろうとも、命を張ることになっても、一切気にも留めない。
自分よりも他人を重きにする精神。
どうしようもないまでのお人よし。
まさしく救済者にふさわしい気質だ。
「……君の神託で、イリス・バージニアを止めることが出来るか?」
「……やるしかねぇだろ」
その瞳に迷いはない。
自らの行動を絶対と判断し、何者にも屈しない意欲を燃やしていた。
(美しい……、血と欲の世界で、これほどの輝きをみせる人間がほかにいるだろうか?)
しばらくマルクの瞳を見つめ、彼は思案を巡らせる。
――――イリスと出会わせれば、一体どうなるのだろうか?
「大丈夫ですわ! お兄様の神託は最強ですもの!」
「いやいや、さすがに最強じゃないぞ? 攻撃力なんて無いに等しいし……」
「アンタねぇ。その神託でどれだけの人が救われたと思ってんの? 今回も大丈夫よ、イケるわ」
「無事に戦いが終わったら、お姉さんのスリーサイズ、教えてあげよっかな~?」
ハンナの発言で、アイリとリャンがギャーギャー喚きだす。
マルクは苦笑いを浮かべながら、両手に花と言った感じで、アイリとリャンに、腕を抱きしめられていた。
その様子を見て、急にイラっときたフレイム。
リャンの飲みかけのブラックコーヒーを手にとり、口に含むや。
一気に4人に吹き付けてやった。
「うわっ! なにをするんだァーーーーッ!?」
「キャア! きったなーーい!!」
「あわわ、お兄様がコーヒーまみれにぃ~~!?」
「なにをするんですかもう!」
4人の罵声に、フレイムは悪びれる様子すらなく、わざとらしく咳込む。
「あぁ~スマナイ、なぜか急に喉が渇いてね? それで近くにあったブラックコーヒーを飲んだんだが、実にまずい。砂糖の入れすぎじゃあないか? 甘ったるいったらありゃしない。つい吹き出しちゃったよ」
その表情は、ザマを見ろ、と言わんばかりのしたり顔だった。
「まぁいい。……君たちにそこまでの覚悟があるのなら、案内してやろう。イリス・バージニアがいるであろう場所に、ね?」
フレイムは立ち上がり、出口に向かって踵を返す。
(丁度いい……、神託斬りの力がどこまで通じるか、この目で確かめさせてもらおう。相手は魔王から世界を救わんとする勇者様だ。相手にとって不足はあるまい?)
彼は密かに笑みを零しながら外へ出て、海が広がる方向へと目を向けた。
一方、海岸では。
「……よかった、あのままどこかに流されちゃうのかと思ったけど、この国の海岸にうまく流れ着いたみたいね」
イリス・バージニアは生きていた。
フレイム・ダッチマンに対する苛立ちを押さえながら。
「とりあえずアイツ探して文句言わなくちゃ……、いや、別に殺してもいいかな」
ブツブツとぼやきながら、再度街の方へ入っていく。
むせ返るような臭いと色の中で、フレイムは何度も服と髪をはたいた。
埃と塵が舞い、咳込みながら今の状況を把握する。
「ぐ、私としたことが、角度を見誤るとは……まぁいい、アクシデントはつきものだ。むしろ、よくもまぁ咄嗟にプランBなぞ浮かんだものだ。さすが私」
体を起こし周りの様子を確かめると、既に下に兵士が集まって来ていた。
思った以上に行動が早い。
さすがのフレイムも、この状況にはお手上げだ。
変に抵抗して事態が悪化すれば、それこそ旅に支障が出る。
「いかんな、目立ちすぎたか……。そう言えば、勇者一行が絡んでいるのだったな……。その勇者一行とやらはどこにいる?」
兵士たちが建物を囲んでいる中、ひとりの少年が前に躍り出て、フレイムのことを呼び止める。
「なぁ、いるんだろう? アンタに話がある」
フレイムはゆっくりと下を見下ろす。
そこに立つのは、マントを羽織り、剣士の装束を身に着けた黒髪の少年。
恐らく、イリスとそう年齢は変わらないだろう。
だが、最も驚くべきなのは彼の"声"だ。
言葉遣いに少し荒々しさがみられるも、不思議と耳を傾けてしまうような声調。
一言一句に聞き惚れる、というべきか。
「……なにかな? 今私は忙しいんだが」
「アンタに逃げ場はねぇ。俺はアンタと……"神託斬り"に用があるんだ!」
その言葉を聞いた瞬間、フレイムの直感が、脳内でざわめく。
「私と……あのイリス・バージニアにか?」
「そうだ、どうしても会いたいんだ……まずはアンタと、話がしたい」
真っ直ぐな瞳だった。
正義と狂気が入り混じり、今にも燃え上がりそうな輝きを秘めている。
「……いいだろう! このフレイム・ダッチマン、名も知らぬ君の要望に応えよう!!」
そういうと、軽やかに地に舞い降りる。
フレイムの口角は不気味なまでに吊り上がっていた。
無論、少年はその真意を知る術はない。
「話がしたいのだったな?」
「あぁ!」
「ならば、ここから1番近くのカフェでどうかな?」
「……わかった。ちょうど今、あのカフェに仲間がいるから。あそこでいいか?」
「君に任せよう」
少年は踵を返し、兵隊長であろう人物に指示を出している。
困り顔の兵隊長は暫く考えた後頷き、兵士たちにその場を離れるよう指示した。
これは撤退の指示だ。
その少年は、兵隊長に命令したか頼んだかで、その指示を出させたのだと、フレイムは感じ取った。
「ほう、その歳で軍隊の命令系統のかなり上位に食い込んでいるらしいな」
「俺は軍人じゃあねぇよ。あと、あの人は俺の死んだオヤジの部下だった人。昔からの知り合いでね……指示っていうかちょっとした頼みをしただけさ。」
少年は疲れたように肩を鳴らす。
妙なコネクションを持つこの少年にフレイムは興味を持った。
どれだけ見ても、なんの変哲もない少年に、どうしてここまで魅力を感じたのか。
――――少し、確かめてみたくなった。
「……君の名を聞いていなかったな? さっきも言ったと思うが、私はフレイム・ダッチマン。貴族兼賞金稼ぎだ」
「……金があるのに賞金を稼ぐのか?」
「趣味だ、というか、暇潰しだ。……で? 君の名前は?」
少年は立ち止まり、フレイムと真っ直ぐ向き合う。
「マルク・ザイルテンツァー。仲間と一緒に旅をしてる」
「マルク……、君はもしかして……『神託の光剣使い』と言われている……少年かね?」
「あ~……、うん、なんで言われるようになったかわかんないけど」
この問いがフレイムを確信へと導いた。
コイツが話題になった"勇者"であると。
「ほう、これはこれは……勇者殿であったか。この街にはどうして? 確かこの世の魔物を殲滅するために旅をしているとは聞いていたが」
「まぁそんなところさ。だけど……イリスって奴に、俺の大切な仲間が……」
「そうだったか……これは失敬。……おや、兵士たちの撤退も済んだようだ。では、我々も行こうじゃあないか」
そう言って、仲間が待っているというカフェに足を踏み入れる。
「ほう……中々いいカフェだな」
小洒落た雰囲気の内装に流れる小粋な音楽。
自然と背筋が伸び、上品な時の流れを感じ取れる。
「あのこの隅っこさ。おおい! お待たせ」
隅のテーブルには、女性3人が肩を並べて座っていた。
そして、マルクの姿を見るや、表情が変わる。
「あぁ、お兄様! お怪我はありませんか!?」
「マルク! また勝手にひとりで歩き回って……ッ!」
修道服と拳法服に身を包んだ少女ふたりが立ち上がる。
見た感じ、修道女と格闘家だろう。
修道女はマルクの妹なのか、お兄様と呼び慕っているようだ。
そんな修道女は安堵の色を浮かべ、格闘家はこめかみを押さえながらため息を漏らしている。
「まぁまぁ、頭よりも先に身体が動く、というのはマルク君の本質。もう皆わかっているじゃない。だから、もう許してあげましょ? ね?」
こちらは、落ち着いた雰囲気をもつ女性だ。
年はパーティの中で最年長だろう。
手に持っているのは古い魔術書だ。
「ご、ごめんよ皆。居てもたっても居られなくて。……神託斬りの関係者を連れてきた」
「ご機嫌麗しゅうレディたち。私はフレイム・ダッチマン。神託斬りのことを知っている男だ」
彼女らがフレイムの姿を見た瞬間、場の雰囲気がガラリと変わった。
気まずそうに俯く修道女と格闘家、そして、じっとフレイムを見定めるように見据える魔術師。
しかし、そんな雰囲気は一切気にせず、近くに置いてあった椅子を持ってきて座る。
「ずいぶんと女性が多いね? マルク、君の本命は誰だ? その人のスリーサイズは当然知っているんだろう? ん?」
「は!? アンタいきなりなに言うんだよ!」
「バババ、バッカじゃないの!? ……まだ知られて、ないわよね?」
「お、お兄様になら……別に」
「あらあら」
場が変な意味で和む。
非常に良し。
とりあえず、簡単な自己紹介をしてくれた。
修道女はマルクの妹で、名前をアイリという。
格闘家はリャン。
魔術師はハンナ。
そして、数日前にイリスによって斬られたのは、ロイドというマルクにとっての大親友だった男らしい。
「なるほど、では目的は復讐かな?」
「いや、俺は復讐なんて望んじゃいない」
マルクは即座に否定した。
ほか3人もマルクに同調し頷く。
強い眼差しだ。
それだけで感じる。
このマルクという少年との強い絆を。
「じゃあ、どうしたいんだ?」
フレイムは笑みを絶やさず、そう聞いた。
マルクは、さもそれが当然のように答える。
「決まってるだろ、あの娘に、神託斬りなんてやめてもらうんだ。あの娘の凶行を止めようと、ロイドは死んだ。すごく悔しいし、悲しい……。だが、あの娘がそうしてるのはきっと、なにかワケがある。それを突きとめて、やめさせる!」
その言葉に、嘘偽りはなかった。
聞いているだけでもわかる。
仲間を殺されたにも関わらず、マルクはイリスの身を案じているのだ。
そして、心底イリスを救いたいと思っている。
「相手はきっと、君や仲間たちに攻撃してくるだろう。それでもか?」
「それでもだ! 人殺しなんていう、間違った道を進んでる女の子を、俺は放ってはおけない!!」
そのためなら、どれだけ体を張ろうとも、命を張ることになっても、一切気にも留めない。
自分よりも他人を重きにする精神。
どうしようもないまでのお人よし。
まさしく救済者にふさわしい気質だ。
「……君の神託で、イリス・バージニアを止めることが出来るか?」
「……やるしかねぇだろ」
その瞳に迷いはない。
自らの行動を絶対と判断し、何者にも屈しない意欲を燃やしていた。
(美しい……、血と欲の世界で、これほどの輝きをみせる人間がほかにいるだろうか?)
しばらくマルクの瞳を見つめ、彼は思案を巡らせる。
――――イリスと出会わせれば、一体どうなるのだろうか?
「大丈夫ですわ! お兄様の神託は最強ですもの!」
「いやいや、さすがに最強じゃないぞ? 攻撃力なんて無いに等しいし……」
「アンタねぇ。その神託でどれだけの人が救われたと思ってんの? 今回も大丈夫よ、イケるわ」
「無事に戦いが終わったら、お姉さんのスリーサイズ、教えてあげよっかな~?」
ハンナの発言で、アイリとリャンがギャーギャー喚きだす。
マルクは苦笑いを浮かべながら、両手に花と言った感じで、アイリとリャンに、腕を抱きしめられていた。
その様子を見て、急にイラっときたフレイム。
リャンの飲みかけのブラックコーヒーを手にとり、口に含むや。
一気に4人に吹き付けてやった。
「うわっ! なにをするんだァーーーーッ!?」
「キャア! きったなーーい!!」
「あわわ、お兄様がコーヒーまみれにぃ~~!?」
「なにをするんですかもう!」
4人の罵声に、フレイムは悪びれる様子すらなく、わざとらしく咳込む。
「あぁ~スマナイ、なぜか急に喉が渇いてね? それで近くにあったブラックコーヒーを飲んだんだが、実にまずい。砂糖の入れすぎじゃあないか? 甘ったるいったらありゃしない。つい吹き出しちゃったよ」
その表情は、ザマを見ろ、と言わんばかりのしたり顔だった。
「まぁいい。……君たちにそこまでの覚悟があるのなら、案内してやろう。イリス・バージニアがいるであろう場所に、ね?」
フレイムは立ち上がり、出口に向かって踵を返す。
(丁度いい……、神託斬りの力がどこまで通じるか、この目で確かめさせてもらおう。相手は魔王から世界を救わんとする勇者様だ。相手にとって不足はあるまい?)
彼は密かに笑みを零しながら外へ出て、海が広がる方向へと目を向けた。
一方、海岸では。
「……よかった、あのままどこかに流されちゃうのかと思ったけど、この国の海岸にうまく流れ着いたみたいね」
イリス・バージニアは生きていた。
フレイム・ダッチマンに対する苛立ちを押さえながら。
「とりあえずアイツ探して文句言わなくちゃ……、いや、別に殺してもいいかな」
ブツブツとぼやきながら、再度街の方へ入っていく。