「なんとも悲惨な光景だ。カリメア南北戦争ほどではないが……」
異次元空間の中彷徨うフレイム・ダッチマン。
あらゆる色が混じり合い濁り切った空模様。
果ての見えないだだっ広い空間。
その大地に転がっていたのは……。
「サキュバス、そして……なるほど、行方不明になった騎士団、か」
死屍累々。
ここで、彼等は殺し合ったのだろう。
悲痛の顔、狂気の顔、様々な死に顔を拝めた。
サキュバスと騎士の凄惨な光景が目の前に広がっていたのだ。
むせ返るほどの血の匂い。
ここに転がる死者がどんな思いで戦い、どんな思いで死んでいったか。
そして、死に際にどんな悲鳴を上げたのか。
「ふふ、フフフフフ」
考えただけでフレイムは興奮した。
騎士たちの厳粛な鎧と、サキュバスの淫靡な恰好から滴る大量の血の流れが、彼の嗜虐心を刺激する。
「さて、まずは出口を……と言っても、エーディンがそんなものを用意しているとは思えん。となれば、どうするか……」
しばらく考えたが、いい案は浮かばない。
とりあえず、腐敗の進んでいないサキュバスの死体を枕に一休みしようかと考えた、そのとき。
ズルズルと音がした。
どす黒い液体状のものがいくつも地面から滲み出て、ヒト型のような形態をとっていく。
1匹、また1匹とこちらに迫ってくる。
人間とはまた違う、異質な殺気をまとっていた。
「ほう、これはこれは……どうやら私にもプレゼントを置いていてくれたらしいなエーディンは」
ニッと笑い、自らも進み出た。
進むにつれ数は多くなる。
そしてついには囲まれた、否、囲ませた。
「さて、楽しませてくれるんだろうな? 異次元の名も知らぬ君たちよ、私は今、心から『強者』を望んでいる。こんな男と女が入り混じった地獄、私にとっては最高の"勃起案件"だ。戦わねば、おさまりがつかないよ!」
チュルリと舌なめずり。
拳を軽く握り、猫足立ち。
眼光は鋭く、背後からの攻撃にも備える。
「刮目せよエーディン。貴様に喧嘩を売った相手がどんな奴なのか、その目でたっぷりと見物するがいい」
言葉が終わると同時に、異次元生物達は奇声を上げながら襲い掛かる。
統制は取れていない。
まるで、目の前の餌に齧り付こうとする獣の群れだ。
「ふん、なんとも品のない奴等だ。これでは本気を出すまでもないな。……Missing-F」
それに対するは自らをかたどった無数の幻影。
異次元生物の格闘センスも中々で、1匹の撃退に時間がかかっている。
「ほう、やるな。だが……この私に物量作戦で挑んだのが運の尽きだな」
そのあとも無数の幻影を異次元生物に飛ばし、容赦のないリンチを繰り出していく。
フレイムはその場から動かない。
この幻影の群れを抜けだしてくる、骨のある者はいないものかと周囲に目を光らせていた。
次々と倒れていく中、2匹の異次元生物に注目する。
(あの2匹……勝手に持ち場を離れていくぞ? 向かっていく先は……、む、死体の方だ)
注目すると、片方はサキュバス、もう片方は騎士にと近づく。
そして、再び液状になるや、その死体の中へと入っていった。
「ほう……面白い。次にあの2匹がなにをしようとしているのか。手に取るようにわかるぞ」
あの2匹以外の異次元生物は全撃破。
だが、そんなことはどうでもいい。
むくりと立ち上がる2つの死体。
真っ赤な眼光で睨みつけるサキュバス。
両手に剣を持つ、首を失った騎士。
両名、ゆっくりとフレイム・ダッチマンに歩み寄ってくる。
「死体に寄生し、その技を盗み、この私を殺さんがために使う、と?」
フレイムは嬉しそうに拳を前に構える。
同時に、騎士は両の剣を上段に。
サキュバスはダンスのような動きで足技を披露し、フレイムへの攻撃に備える。
(二刀流、そして足技。すでに死体、操り人形であるにも関わらず……この全身を貫くような闘気)
フレイムは強者の登場に笑みを浮かべた。
そして、しばらくの睨み合い。
先に出たのはサキュバスだ。
風を斬る、美しい脚が奏でる破壊の技。
顔面目掛け飛ぶそれを左腕でいなし、右の拳を打ち込もうとした。
だが、サキュバスの動きはそれより速い。
「ぬッ!」
いなされた直後、体を支えている方の足を深く沈ませ、その勢いを利用した痛烈な足払い。
避けようと思ったが間に合わず、足を払われバランスを崩した。
そこに追い打ちをかけるように、サキュバスのカポエラー。
大きく開いた、回転する両足の破壊力にフレイムは数m吹っ飛ばされる。
(なんというパワーだ。流石人間より能力が優れているだけのことはるな)
すぐさま体を起こすが、次に攻めてきたのは首を失った騎士。
宙高く舞いながら、振り上げた剣をフレイムに振り下ろしてくる。
「この程度……ッ!」
両手の鉄甲で防ぐ。
激しい金属音を鳴り響かせながら、周囲に衝撃波が走った。
斬撃を受け止められたとみるや、騎士はほんの3寸退き、そこから二刀流による巧みな剣捌きを見せる。
右の横薙ぎの後、左の唐竹。
十字になるような斬撃をフレイムは鉄甲を用いた拳術で受け流していく。
だが、騎士はフレイムの技量をまるであざ笑うかのように、独楽のように体を回転させながら各種の斬撃を放った。
「まるで、嵐のような剣だな。生前は、さぞや血気盛んな剣士だったのだろう!」
フレイムは後方に高く飛びつつ、間合いをあけた。
このふたりの技量は見て取れた。
今まで戦ってきた敵よりもずっと手ごわい。
「ふぅ、よもやここまでの腕とは……フフフ、世界は広いな。こうも容易く押されるとは……」
すると、フレイムは、ここで相手への敵意と殺気を消した。
これにはふたりも立ち止まり、じっと様子をうかがっている。
「もしかしたら、イリスと次に戦うときに使うことになるかも、と思っていたが……そんな余裕は言ってられんらしい。この局面で神託に頼るのも悔しい。だから、我が体術の『真骨頂』をお見せしよう」
言葉と表情とは裏腹に、攻撃はおろか動く気配すら見えない。
それを不思議に思ったのかどうかはわからないが、サキュバスと騎士は1歩、また1歩と近づいていく。
「私はあらゆる師から拳法を学び、己の物としてきた。だが、ただ拳法ができるだけでは意味がない。ゆえに、己の道即ち、己のみの拳法を発案したのだ」
そう言ってフレイムは1歩踏み出た。
次の瞬間、彼の姿が消えた。
雷鳴の如し音がなり、次に彼が現れたのは、遥か後方。
それを認識することなく、騎士は鎧ごとその身を砕かせ、サキュバスは鳩尾に深い窪みと内部の骨や臓器をやられた。
死体ゆえか、声を上げることなく、ふたりはドシャリと崩れ落ちる。
そのさまを見ながらフレイムは肩を軽く鳴らした。
「零縮地による移動、加えて、功夫により練り上げた拳技。零斬の概念を応用した新しい拳法。目にも見えず、異能による探知も出来ぬ"魔の物理領域"。これぞ、私が編み出した『零意道』だ」
フレイム・ダッチマンの得意とする拳技。
認めた相手にしか披露せぬ魔の物理領域。
あらゆる武術を学びつつ、数多の局面を乗り越えてきた彼が独自に創始した哲学・思想。
そして、何者にも負けず染まらずをモットーにした型無き殺人拳法。
一撃必殺を旨とした拳や足を、人体急所に容赦なく叩きこむのだ。
よもや、手ごわい死体に使うとは、夢にも思わなかったが、それでも彼は満足だった。
これからもしかしたら、もっと自分を興奮させてくれる者が現れるかも知れない。
真っ先に浮かんだのが、あのイリス・バージニアの姿だった。
「フフフ、楽しいな。こんなにウキウキするのは久方ぶりだ。……なぁ?」
フレイムがバッと後ろを振り向く。
そこには、険しい顔をして彼を睨むエーディンがいた。
異次元空間の中彷徨うフレイム・ダッチマン。
あらゆる色が混じり合い濁り切った空模様。
果ての見えないだだっ広い空間。
その大地に転がっていたのは……。
「サキュバス、そして……なるほど、行方不明になった騎士団、か」
死屍累々。
ここで、彼等は殺し合ったのだろう。
悲痛の顔、狂気の顔、様々な死に顔を拝めた。
サキュバスと騎士の凄惨な光景が目の前に広がっていたのだ。
むせ返るほどの血の匂い。
ここに転がる死者がどんな思いで戦い、どんな思いで死んでいったか。
そして、死に際にどんな悲鳴を上げたのか。
「ふふ、フフフフフ」
考えただけでフレイムは興奮した。
騎士たちの厳粛な鎧と、サキュバスの淫靡な恰好から滴る大量の血の流れが、彼の嗜虐心を刺激する。
「さて、まずは出口を……と言っても、エーディンがそんなものを用意しているとは思えん。となれば、どうするか……」
しばらく考えたが、いい案は浮かばない。
とりあえず、腐敗の進んでいないサキュバスの死体を枕に一休みしようかと考えた、そのとき。
ズルズルと音がした。
どす黒い液体状のものがいくつも地面から滲み出て、ヒト型のような形態をとっていく。
1匹、また1匹とこちらに迫ってくる。
人間とはまた違う、異質な殺気をまとっていた。
「ほう、これはこれは……どうやら私にもプレゼントを置いていてくれたらしいなエーディンは」
ニッと笑い、自らも進み出た。
進むにつれ数は多くなる。
そしてついには囲まれた、否、囲ませた。
「さて、楽しませてくれるんだろうな? 異次元の名も知らぬ君たちよ、私は今、心から『強者』を望んでいる。こんな男と女が入り混じった地獄、私にとっては最高の"勃起案件"だ。戦わねば、おさまりがつかないよ!」
チュルリと舌なめずり。
拳を軽く握り、猫足立ち。
眼光は鋭く、背後からの攻撃にも備える。
「刮目せよエーディン。貴様に喧嘩を売った相手がどんな奴なのか、その目でたっぷりと見物するがいい」
言葉が終わると同時に、異次元生物達は奇声を上げながら襲い掛かる。
統制は取れていない。
まるで、目の前の餌に齧り付こうとする獣の群れだ。
「ふん、なんとも品のない奴等だ。これでは本気を出すまでもないな。……Missing-F」
それに対するは自らをかたどった無数の幻影。
異次元生物の格闘センスも中々で、1匹の撃退に時間がかかっている。
「ほう、やるな。だが……この私に物量作戦で挑んだのが運の尽きだな」
そのあとも無数の幻影を異次元生物に飛ばし、容赦のないリンチを繰り出していく。
フレイムはその場から動かない。
この幻影の群れを抜けだしてくる、骨のある者はいないものかと周囲に目を光らせていた。
次々と倒れていく中、2匹の異次元生物に注目する。
(あの2匹……勝手に持ち場を離れていくぞ? 向かっていく先は……、む、死体の方だ)
注目すると、片方はサキュバス、もう片方は騎士にと近づく。
そして、再び液状になるや、その死体の中へと入っていった。
「ほう……面白い。次にあの2匹がなにをしようとしているのか。手に取るようにわかるぞ」
あの2匹以外の異次元生物は全撃破。
だが、そんなことはどうでもいい。
むくりと立ち上がる2つの死体。
真っ赤な眼光で睨みつけるサキュバス。
両手に剣を持つ、首を失った騎士。
両名、ゆっくりとフレイム・ダッチマンに歩み寄ってくる。
「死体に寄生し、その技を盗み、この私を殺さんがために使う、と?」
フレイムは嬉しそうに拳を前に構える。
同時に、騎士は両の剣を上段に。
サキュバスはダンスのような動きで足技を披露し、フレイムへの攻撃に備える。
(二刀流、そして足技。すでに死体、操り人形であるにも関わらず……この全身を貫くような闘気)
フレイムは強者の登場に笑みを浮かべた。
そして、しばらくの睨み合い。
先に出たのはサキュバスだ。
風を斬る、美しい脚が奏でる破壊の技。
顔面目掛け飛ぶそれを左腕でいなし、右の拳を打ち込もうとした。
だが、サキュバスの動きはそれより速い。
「ぬッ!」
いなされた直後、体を支えている方の足を深く沈ませ、その勢いを利用した痛烈な足払い。
避けようと思ったが間に合わず、足を払われバランスを崩した。
そこに追い打ちをかけるように、サキュバスのカポエラー。
大きく開いた、回転する両足の破壊力にフレイムは数m吹っ飛ばされる。
(なんというパワーだ。流石人間より能力が優れているだけのことはるな)
すぐさま体を起こすが、次に攻めてきたのは首を失った騎士。
宙高く舞いながら、振り上げた剣をフレイムに振り下ろしてくる。
「この程度……ッ!」
両手の鉄甲で防ぐ。
激しい金属音を鳴り響かせながら、周囲に衝撃波が走った。
斬撃を受け止められたとみるや、騎士はほんの3寸退き、そこから二刀流による巧みな剣捌きを見せる。
右の横薙ぎの後、左の唐竹。
十字になるような斬撃をフレイムは鉄甲を用いた拳術で受け流していく。
だが、騎士はフレイムの技量をまるであざ笑うかのように、独楽のように体を回転させながら各種の斬撃を放った。
「まるで、嵐のような剣だな。生前は、さぞや血気盛んな剣士だったのだろう!」
フレイムは後方に高く飛びつつ、間合いをあけた。
このふたりの技量は見て取れた。
今まで戦ってきた敵よりもずっと手ごわい。
「ふぅ、よもやここまでの腕とは……フフフ、世界は広いな。こうも容易く押されるとは……」
すると、フレイムは、ここで相手への敵意と殺気を消した。
これにはふたりも立ち止まり、じっと様子をうかがっている。
「もしかしたら、イリスと次に戦うときに使うことになるかも、と思っていたが……そんな余裕は言ってられんらしい。この局面で神託に頼るのも悔しい。だから、我が体術の『真骨頂』をお見せしよう」
言葉と表情とは裏腹に、攻撃はおろか動く気配すら見えない。
それを不思議に思ったのかどうかはわからないが、サキュバスと騎士は1歩、また1歩と近づいていく。
「私はあらゆる師から拳法を学び、己の物としてきた。だが、ただ拳法ができるだけでは意味がない。ゆえに、己の道即ち、己のみの拳法を発案したのだ」
そう言ってフレイムは1歩踏み出た。
次の瞬間、彼の姿が消えた。
雷鳴の如し音がなり、次に彼が現れたのは、遥か後方。
それを認識することなく、騎士は鎧ごとその身を砕かせ、サキュバスは鳩尾に深い窪みと内部の骨や臓器をやられた。
死体ゆえか、声を上げることなく、ふたりはドシャリと崩れ落ちる。
そのさまを見ながらフレイムは肩を軽く鳴らした。
「零縮地による移動、加えて、功夫により練り上げた拳技。零斬の概念を応用した新しい拳法。目にも見えず、異能による探知も出来ぬ"魔の物理領域"。これぞ、私が編み出した『零意道』だ」
フレイム・ダッチマンの得意とする拳技。
認めた相手にしか披露せぬ魔の物理領域。
あらゆる武術を学びつつ、数多の局面を乗り越えてきた彼が独自に創始した哲学・思想。
そして、何者にも負けず染まらずをモットーにした型無き殺人拳法。
一撃必殺を旨とした拳や足を、人体急所に容赦なく叩きこむのだ。
よもや、手ごわい死体に使うとは、夢にも思わなかったが、それでも彼は満足だった。
これからもしかしたら、もっと自分を興奮させてくれる者が現れるかも知れない。
真っ先に浮かんだのが、あのイリス・バージニアの姿だった。
「フフフ、楽しいな。こんなにウキウキするのは久方ぶりだ。……なぁ?」
フレイムがバッと後ろを振り向く。
そこには、険しい顔をして彼を睨むエーディンがいた。