イリスの登場にも、エーディンは表情を崩さない。
しかしその裏ではフレイムとの会話に気をとられ、イリスの接近に気づけなかったことを悔やんでいた。
「……中々のスピードじゃない。でも、"音"には敵わないわよねぇ?」
「女の神託者は対象外なのだけど……。まぁたまにはいいかな」
軽く歯軋りしながら、イリスを目で睨む。
フレイムとイリスのふたり対エーディンひとり。
その覚悟で旋律を奏でようとした直後。
「STOP!」
フレイムが制止かけた。
エーディンが驚愕の表情で彼を見る。
イリスはまだ構えてすらいなかったので大して気にはならなかったが、ここで彼が制止するのは珍しいと、目を丸くしていた。
「この勝負……、私とエーディン、ふたりでやらせてくれないか?」
「……え?」
「イリス、君はミラと共に出口へいけ。私は、この女と楽しむことにする」
イリスは舌打ちしつつも、ミラに肩を貸す。
「早目に終わらせてね? あと、変なことしようとしたら殺すから」
「仕方ないから善処くらいはしてやるとしよう」
イリス達が去ったあと、ふたりは静かに殺意を向けあっていた。
エーディンは怒りに歪んだ顔を、フレイムは余裕の笑みを。
「侮られたものねぇ」
「勘違いするな。私はただ、お楽しみを独り占めしたいだけだ」
そう言うと、ゆっくりとエーディンとの距離を詰めていった。
可視化された強烈な闘気を放ちながら歩く姿は、まさに悪鬼そのものだ。
エーディンは、一瞬気圧されそうになったが、すぐにいつもの笑みをフレイムに向ける。
「中々面白い人ねぇ。私を独り占めぇ?」
「そうだ」
「ふふふ、私はそんなにぃ、軽い女じゃないわよぉ?」
「取って食うつもりはない。私はただ女を殴るというプレイをしたいだけだ。……いや、そのあとに愉しむのも悪くないな。君は美人だ」
カツン、とフレイムの靴音が響く。
それが戦闘開始の合図となった。
先手はエーディン。
ハープからの小気味よいメロディ。
それに合わせて、無数の異次元の腕がフレイムに伸びる。
「なるほど、私と似たような力か」
フレイムの神託『Missing-F』による、幻影攻撃。
無作為に伸ばされる黒い腕の群れを、巧みな拳術で弾き、突き破っていく幻影の軍団。
技の破壊力はフレイムが上。
だが、これだけで互いの実力差が判明するわけではない。
「やるわねぇアナタ。でも、それじゃあまだまだよぉ。このセイレーンの足元にも及ばないわぁ」
今度はハープを延々と演奏し始める。
ウジャウジャと空間から黒い腕が伸び始め、フレイムを囲っていった。
「ぬっ!?」
「ふふふ、さぁてアナタの神託はどこまで耐えられるかしらぁ?」
渦潮の流れ。
異次元の腕の群れは、不気味な大螺旋を描きながら襲い掛かる。
苛烈な流れに幻影が巻き込まれ、次々と消滅していった。
エーディンがハープを奏で続ける限り、この腕は無限に増殖し、操作精度があがるのだろう。
「なるほど、量産性及び戦略性においてはそちらが圧倒的か。だが、私も負けてはいられないのだよ」
「うふふ、ほざきなさい。……さぁ。そのまま異次元送りにしてあげるわぁ!」
フレイムを飲み込まんと、暗黒の大渦が押し寄せる。
1本1本が掌を大きく広げ、掴みかかってきた。
「Missing-F! コイツらを全力を以て叩き潰せぇ!!」
出せる限りの幻影を顕現。
幻影にも反映された達人の拳と、本体である自らの拳。
轟音を上げながら連続で打ち込まれる拳。
衝撃波が街中に響き、洞窟内で反響する。
その影響で、山自体が大きく揺れた。
「あらあらぁ~、意外に粘るわねぇ!」
「うぅぉおおおお!!」
雄たけびを上げながら渦を突き破っていく。
エーディンも負けじと異次元の腕の数を増やすが、最早数が追い付かない。
「うふふ、アナタのこと、ちょっとだけ見直したわぁ。セイレーンとここまで張り合うなんて……中々いないのよ? でも、私の方が上手だったみたいねぇ?」
「なに? ……ぬっ!?」
フレイムは、自らの不覚を恥じる。
ふと足元をみるや、ゾッとした感覚に襲われた。
(これは……異次元の腕!? くそ、蛇のように絡みついてきて……ッ!?)
フレイムの足元から這い出てきた異次元の腕が体中に張り付き、突如空間に開いた異次元空間への穴に引きずり込もうとする。
それと同時に、大渦が消えうせ、前方ではエーディンが彼をほくそ笑んでいた。
「うふふ、私のセイレーンはアナタのほど破壊力はないけれど、捕縛や拘束に関しては超一級なのよねぇ」
「……ふん、どうやらそのようだな。で、このまま異次元空間にブチ込まれるわけか」
「そうよぉ、最早逃げ場はない。そこで一生を終えなさいな? お花くらいは添えてあげるわ」
「このフレイム・ダッチマンを出し抜いたこと、大いに褒めてやる。やはり、神託者同士の戦いは侮れん。……だが、私はこの場で誓う。――――必ず戻るとな!」
そういうや否や、高笑いをしながら自ら異次元空間への穴へと飛び込んでいった。
この姿にも、流石のエーディンも目を丸くした。
だが、すぐにまたほくそ笑む。
「……ふん、無駄よぉ。私のセイレーンからは絶対に逃れられない。そう、逃れられないのよぉ? ……さて、さっさとあのサキュバスと女剣士を探して始末しなきゃ。その後は家へ帰って、お昼ご飯の準備しないとねぇ。……待っててね、カイウス。私の大事な大事な弟」
鼻歌交じりにその場を後にし、ミラとイリスを探し始める。
一方、ミラの案内の下、出口までは辿り着いたイリス。
だが、そこはエーディンの神託『セイレーン』によって無数の腕がひしめき合うようにして塞いでいたのだ。
「面倒ね、ぶった切るわ」
「ま、待ちなさい! 罠かもしれませんわ。下手をすればアナタまで異次元空間に放り込まれるかもしれません」
「……じゃあ、どうするっての?」
立て続けに起こる神託者との戦闘で、神経が高ぶっているイリス。
このままにしておけば、自分からエーディンに斬りかかるかもしれない。
戦闘はなんとしてでも避けたかったミラは、一計を案じる。
「大丈夫ですわ。宮殿内部に、秘密の出口がありますの。そこから外へ出ましょう」
「また宮殿に戻るのね……。面倒くさいけど、いいわ。早く行きましょう」
ふたりは宮殿へと足を進めた。
一刻も早く逃げるためにミラは足を速め、イリスを案内する。
だが、その宮殿内では……。
しかしその裏ではフレイムとの会話に気をとられ、イリスの接近に気づけなかったことを悔やんでいた。
「……中々のスピードじゃない。でも、"音"には敵わないわよねぇ?」
「女の神託者は対象外なのだけど……。まぁたまにはいいかな」
軽く歯軋りしながら、イリスを目で睨む。
フレイムとイリスのふたり対エーディンひとり。
その覚悟で旋律を奏でようとした直後。
「STOP!」
フレイムが制止かけた。
エーディンが驚愕の表情で彼を見る。
イリスはまだ構えてすらいなかったので大して気にはならなかったが、ここで彼が制止するのは珍しいと、目を丸くしていた。
「この勝負……、私とエーディン、ふたりでやらせてくれないか?」
「……え?」
「イリス、君はミラと共に出口へいけ。私は、この女と楽しむことにする」
イリスは舌打ちしつつも、ミラに肩を貸す。
「早目に終わらせてね? あと、変なことしようとしたら殺すから」
「仕方ないから善処くらいはしてやるとしよう」
イリス達が去ったあと、ふたりは静かに殺意を向けあっていた。
エーディンは怒りに歪んだ顔を、フレイムは余裕の笑みを。
「侮られたものねぇ」
「勘違いするな。私はただ、お楽しみを独り占めしたいだけだ」
そう言うと、ゆっくりとエーディンとの距離を詰めていった。
可視化された強烈な闘気を放ちながら歩く姿は、まさに悪鬼そのものだ。
エーディンは、一瞬気圧されそうになったが、すぐにいつもの笑みをフレイムに向ける。
「中々面白い人ねぇ。私を独り占めぇ?」
「そうだ」
「ふふふ、私はそんなにぃ、軽い女じゃないわよぉ?」
「取って食うつもりはない。私はただ女を殴るというプレイをしたいだけだ。……いや、そのあとに愉しむのも悪くないな。君は美人だ」
カツン、とフレイムの靴音が響く。
それが戦闘開始の合図となった。
先手はエーディン。
ハープからの小気味よいメロディ。
それに合わせて、無数の異次元の腕がフレイムに伸びる。
「なるほど、私と似たような力か」
フレイムの神託『Missing-F』による、幻影攻撃。
無作為に伸ばされる黒い腕の群れを、巧みな拳術で弾き、突き破っていく幻影の軍団。
技の破壊力はフレイムが上。
だが、これだけで互いの実力差が判明するわけではない。
「やるわねぇアナタ。でも、それじゃあまだまだよぉ。このセイレーンの足元にも及ばないわぁ」
今度はハープを延々と演奏し始める。
ウジャウジャと空間から黒い腕が伸び始め、フレイムを囲っていった。
「ぬっ!?」
「ふふふ、さぁてアナタの神託はどこまで耐えられるかしらぁ?」
渦潮の流れ。
異次元の腕の群れは、不気味な大螺旋を描きながら襲い掛かる。
苛烈な流れに幻影が巻き込まれ、次々と消滅していった。
エーディンがハープを奏で続ける限り、この腕は無限に増殖し、操作精度があがるのだろう。
「なるほど、量産性及び戦略性においてはそちらが圧倒的か。だが、私も負けてはいられないのだよ」
「うふふ、ほざきなさい。……さぁ。そのまま異次元送りにしてあげるわぁ!」
フレイムを飲み込まんと、暗黒の大渦が押し寄せる。
1本1本が掌を大きく広げ、掴みかかってきた。
「Missing-F! コイツらを全力を以て叩き潰せぇ!!」
出せる限りの幻影を顕現。
幻影にも反映された達人の拳と、本体である自らの拳。
轟音を上げながら連続で打ち込まれる拳。
衝撃波が街中に響き、洞窟内で反響する。
その影響で、山自体が大きく揺れた。
「あらあらぁ~、意外に粘るわねぇ!」
「うぅぉおおおお!!」
雄たけびを上げながら渦を突き破っていく。
エーディンも負けじと異次元の腕の数を増やすが、最早数が追い付かない。
「うふふ、アナタのこと、ちょっとだけ見直したわぁ。セイレーンとここまで張り合うなんて……中々いないのよ? でも、私の方が上手だったみたいねぇ?」
「なに? ……ぬっ!?」
フレイムは、自らの不覚を恥じる。
ふと足元をみるや、ゾッとした感覚に襲われた。
(これは……異次元の腕!? くそ、蛇のように絡みついてきて……ッ!?)
フレイムの足元から這い出てきた異次元の腕が体中に張り付き、突如空間に開いた異次元空間への穴に引きずり込もうとする。
それと同時に、大渦が消えうせ、前方ではエーディンが彼をほくそ笑んでいた。
「うふふ、私のセイレーンはアナタのほど破壊力はないけれど、捕縛や拘束に関しては超一級なのよねぇ」
「……ふん、どうやらそのようだな。で、このまま異次元空間にブチ込まれるわけか」
「そうよぉ、最早逃げ場はない。そこで一生を終えなさいな? お花くらいは添えてあげるわ」
「このフレイム・ダッチマンを出し抜いたこと、大いに褒めてやる。やはり、神託者同士の戦いは侮れん。……だが、私はこの場で誓う。――――必ず戻るとな!」
そういうや否や、高笑いをしながら自ら異次元空間への穴へと飛び込んでいった。
この姿にも、流石のエーディンも目を丸くした。
だが、すぐにまたほくそ笑む。
「……ふん、無駄よぉ。私のセイレーンからは絶対に逃れられない。そう、逃れられないのよぉ? ……さて、さっさとあのサキュバスと女剣士を探して始末しなきゃ。その後は家へ帰って、お昼ご飯の準備しないとねぇ。……待っててね、カイウス。私の大事な大事な弟」
鼻歌交じりにその場を後にし、ミラとイリスを探し始める。
一方、ミラの案内の下、出口までは辿り着いたイリス。
だが、そこはエーディンの神託『セイレーン』によって無数の腕がひしめき合うようにして塞いでいたのだ。
「面倒ね、ぶった切るわ」
「ま、待ちなさい! 罠かもしれませんわ。下手をすればアナタまで異次元空間に放り込まれるかもしれません」
「……じゃあ、どうするっての?」
立て続けに起こる神託者との戦闘で、神経が高ぶっているイリス。
このままにしておけば、自分からエーディンに斬りかかるかもしれない。
戦闘はなんとしてでも避けたかったミラは、一計を案じる。
「大丈夫ですわ。宮殿内部に、秘密の出口がありますの。そこから外へ出ましょう」
「また宮殿に戻るのね……。面倒くさいけど、いいわ。早く行きましょう」
ふたりは宮殿へと足を進めた。
一刻も早く逃げるためにミラは足を速め、イリスを案内する。
だが、その宮殿内では……。