2時限目は、英語の授業。
 この教師はけっこうまともな方で、勉強してないと出席カードをくれない。
 さすがの俺もノートPCはしまい、真面目に授業を受けた。

 まあリア充グループのミハイル、千鳥(ちどり) (りき)花鶴(はなづる)ここあはグースカ寝ていた。

 チャイムが鳴り、教師が去る。
 尿意を感じた俺は、お花を摘みにいざ、お花畑へ!

 廊下を歩いていると、制服組のグループが群れをなして行く手を阻む。
 邪魔だわ~ 
 この肉の壁どもが!

「悪いが通してくれないか?」
 語気が強まる。

 一人の男子が振り返って、俺の顔を覗き込む。
 相手の身長は180センチ以上ありそうだ。
 がたいもよく、筋肉の鎧でフル装備。
 たぶん、部活のために日曜日だというのに、わざわざ登校する脳筋野郎だな。

「あ? なんか用?」
 いきなりケンカ腰だよ。
 制服組だからって威圧的なのはよくないと思うぞ、わしは。

「邪魔になっていると言っているんだ」
「あのさ、お前らこそ、俺たち三ツ橋高校の邪魔なんだわ」
 両腕を組むと、俺の可愛らしいお花摘みを止めに入るガチムチ野郎。
 気がつくと残りの数人も、俺に睨みをきかせ、何か言いたげだ。

「そうだよ! お前ら一ツ橋高校は、俺らの面汚しだよ」
 なに便乗してんだ。
「俺らの校舎だべ? おめー達は遠回りでいくべ?」
 どこの出身ですか?

「あのな……お前ら。学費は誰が払っている?」
 俺は社会人兼高校生だぞ、えっへん。

「「「?」」」

 3人共、顔を見つめ合わせると目を丸くしている。
 数秒の沈黙のあと、腹を抱えて笑う。

「はっははは! なにいってんだこいつ。親が払うだろ、フツー」
 体格のいいリーダー的存在のやつは、俺に指までさして笑う。
 失礼なやつだ。
 人に指をさしていいのは、某裁判のゲームのときだけだぞ。

「お前……いい根性しているな」
 キレるスイッチが入ってしまった。
「あぁんっ?」
 そちら様も同様のようで。

「俺の名は新宮(しんぐう) 琢人(たくと)。お前は?」
「タクトだ? オタクみてー」
 なにこれ? 毎回、オタクいじりされるの?
 名前でウケはとりたくないのに、ゲラゲラ笑ってしゃる。

「あー、ウケるわ。俺の名前は福間(ふくま) 相馬(そうま)だぜ」
 ニカッと笑う。
 悔しいが清潔感あるイケメンだな。
 身長も180センチ以上で体格もいい。
 肌が少し日焼けしているし、活発そうな男子……ってイメージ。
 オラってはいるが、女子ウケいいんだろうな、チキショウ!

「福間 相馬か……認識した。改めて言おう。そこをどけ。俺はこの一ツ橋高校の生徒であり、学費は自ら払っているんだ。文句があるなら、痴女教師の宗像先生に言え!」
「誰だ、そいつ?」
 え? 知らないの?
 あの変態教師を、環境型セクハラな生き物を。

宗像(むなかた) (らん)先生だ」
「ハンッ、ババアくせー名前だな」
 な、なんてことを! 俺は知らんぞぉ~
「何を言っている? 宗像先生はまだ20代だぞ」
 一応、フォローしておく。
「アラサーじゃね? 四捨五入したら30代だろ? ババアじゃん、BBA(ビービーエー)
 NO~! 

「あっ、センパイ!」
 甲高い声が聞こえた。
 制服組の男子もその声を辿る。
 福間たちの背後に、一人のJKが立っていた。

「こんなとこにいたなんて、奇遇ですね♪」
 笑顔で駆け寄るJK。
 なんだ福間の知り合いか。
「おう、奇遇だな」
 嬉しそうに笑う福間。
 俺をチラ見して、勝ち誇った顔をしている。
 ハイハイ、リア充。爆ぜろ。

「この前は、よくも私の裸を見てくれましたね!?」
 福間たちを通り過ぎ、俺の胸を人差し指で突っつくJK。
 よく見れば、ボーイッシュなショートカットに校則違反のミニスカ。
 こいつは……。

「お前、赤坂(あかさか) ひなたか?」
「あ、新宮センパイ。また私のこと忘れてたでしょ? ひどーい」
 ミハイルくんとアンナちゃんでお腹いっぱいで、あなたという存在を消去していました。

「す、すまん。赤坂……なんか用か?」
「この前のこと、私、忘れませんから!」
「なにを顔を真っ赤にしているんだ? 熱でもあるのか?」
 そういうと、胸の前で拳をつくり、顔を更に赤くする。
「だ、だって私のパ、パ、パ……」
「パンティーだろ?」
 
 ダンッ!
 
「いってぇ!」
 また俺の上履きを汚したな! 暴力JKめ!
「なにをする、赤坂!」
「セクハラ先輩! エッチ! ヘンタイ!」
 言葉責めって嫌いじゃありません。

「おい、赤坂。こいつと知り合いか?」
 なにやら不機嫌そうな顔で、こっちを眺める福間。

「あ、福間先輩。いたんですか?」
 それ一番言っちゃダメなやつ。
「いたよ……ところで、赤坂。今日は部活か?」
「はい、ですよ」
「なあ……ちょっと、いいか?」
「いいですけど?」
 赤坂はきょとんした顔で福間を見上げる。
 
 福間が黙って、俺に首で「早くいけ」とサインを出す。
 なんじゃ? 口説くんけ?
 しゃあないのう、じゃあわしは雪隠(せっちん)休憩じゃ。

「あっ、新宮先輩! 今度あったら責任とってくださいよ!」
「なにをだよ……」
 ため息をついて、俺はその場を離れようとした。

 その時だった。

「なあ赤坂、お前……あのオタクに裸を見られたのか?」
 そんな名前じゃねぇ!
「え!? べ、別に。福間先輩には関係ないでしょ……」
 歯切れが悪いぞ、赤坂。
 まるで俺が盗撮犯みたいじゃないか。
 あれは事故だったろ。

「関係ないことないだろ! 俺の可愛い後輩に……」
 可愛いって告白に近いじゃん、バカじゃん。
 不穏な空気が漂う。
 俺はその場から去ろうと足を進める。

「だから一ツ橋は嫌いなんだ。生徒もバカ。教師もただのババア」
 聞き捨てならなかった。
 だが、今日の俺は急いでいた。小説の作成も控えている。
 くだらない、相手にしてやるべき存在でもない。
 リア充の戯言だと言いながらも、歯を食いしばった。

「だーれが、ババアだって?」

 肩まで伸びた髪が、窓から流れる風と共に揺れる。
 鋭い眼つきは獲物を狩る百獣の王のそれと同じだ。

「え? だ、誰だ。あんた?」
 その女は身長180センチもある福間より背が低いのに、巨人のように感じる。
「私は一ツ橋のババアでBBA(ビービーエー)の宗像 蘭ちゃんだぁ~」
 二つの大きなメロンがブルンブルン! キモッ!
 不敵な笑みを浮かべている。
 こ、こえええ!
 聞こえてたんだ。

「ひ、一ツ橋の先生なら、関係ないっしょ?」
「大ありだぁ~ いいだろう、この機会に、みっちりと女性のすばらしさを教えてやる」
 そう言うと宗像先生は、福間の襟元を掴み引きずって連れ去る。

「や、やめてぇぇぇ!」
「うるさい! 黙って私についてこい! 誰が30代はババアだ? 女は死ぬまで女だ、コノヤロー! 校舎でイチャイチャしやがって、クソ野郎が!」

「「「……」」」

 沈黙で福間先輩を見捨てる赤坂とモブ男子ども。

「南無阿弥陀仏」
 俺は手を合わせて、福間先輩が天国(いろんな意味)にいけるように祈った。

 みんなを救ってくれた、それが福間 相馬!
 忘れないぜ、この恩を。

 この後、めちゃくちゃお花を摘んだ。