一がリキに好意を寄せていると知ったミハイルは、態度を一変させ、ニコニコと笑っている。
 少し離れた場所……。玄関でリキと話す一を見て、何か思いついたようだ。手の平をポンと叩く。

「そうだ! タクトの手についた汚れは、落とせないけど……。一のお尻なら、落とせるよね☆」
 と瞳をキラキラと輝かせる。
 こういう時は、大体変なことをやらせるつもりだ。

「一の尻? なんのことだ?」
「だから、汚れだよ☆ タクトが手で触ったのなら、汚れがついてるじゃん。ちゃんと落とさないとね☆」
「……」

 それって、俺が汚物ってことかよ。
 酷いな、ミハイルくんたら。

  ※

 玄関に戻ると、すぐにミハイルは頭を下げて、一に謝る。

「ごめん。オレ、勘違いしてみたい」
 急に謝られたから、一も動揺していた。
「え、えぇ!? いえ、僕は別に……新宮さんのことでしたら、何とも思っていませんから。いつも空気みたいな存在だと思ってます」
「ハハハッ。だよな☆」

 おい、こいつら。
 なに俺のことを、ディスりやがっているんだ?
 空気だと……一の奴。今度、博多社で会ったら、覚えてろよ。
 ケツだじゃ、済ませねぇからな。

「ところでさ。一のお尻に、まだ汚れがついてるよね? ちゃんと落とした方が良いよ。タクトの手はべったりとして、汚いから☆」
 だから、何で俺だけ汚物扱いになってんの?
「え? 汚れ?」
 一は彼の言うことが理解できないようで、首を傾げている。
「ちょうど、オレのダチがいるからさ。そいつに落としてもらおうよ☆」
「はぁ……」

 ミハイルはリキの傍に近寄ると、背伸びして耳打ちを始める。
「こうして、あーやってね……」
「え? それで、俺が一のを触ればいいのか?」
「そうそう☆」
「ふ~ん。ま、いいぜ」

 この時、俺は彼らの行動を止めるべきだったと、のちに後悔することとなる。

 ~10分後~

「くっ、んあっ! いぃっ……」
「どうだ? 落ちたか?」
「あぁっ! だ、ダメですぅ! そ、そんな……」

 一体、何を見せられているんだ? 俺は……。
 サキュバスのコスプレをした少年が、スキンヘッドの老け顔に、尻を撫で回される。
 
 リキ自体はやましい気持ちなんて無いから、善意でやっているに過ぎない。
 全ては俺の隣りで、ニヤニヤ笑っているミハイルが計画したものだ。

「ハハハッ☆ 一のやつ、嬉しそうだな」
「……」

 確かに想いを寄せているリキが、優しく尻を触ってくれるから、悦んでいるようだが。

「だ、ダメですぅ! 僕とリキ様はまだ出会って2回目だと言うのに……こんなっ、んぐっ!」
 一の息遣いは徐々に荒くなり、頬を紅潮させ、瞳はとろ~んとしている。
 時折、身体をビクッと震わせて。
「別に良いだろ? 一がタクオのダチなら、俺のダチだよ。気にすんな。ところで、尻の汚れ……痛みは良くなったか? 今、どんな感じだ?」
「ハァハァ……心臓がバクバクして、今にも飛び出そうですぅ!」
「そりゃ、良くないな……。なんでそうなるんだろな?」

 お前が尻を撫で回して、感じさせているからだよ! とは言えないな。
 結果的にとはいえ、一の願望を叶えているし……俺は傍観者でいよう。

 2人の会話を聞いてたミハイルが、更なる追い打ちをかける。

「ねぇ、リキ。一はお胸が痛むんだよ。だから、お尻を触りながら、お胸も触ってあげてよ☆」
「えぇ……」
 一体、ナニをさせる気だ。この人……。

 それを聞いたリキは、「わかった」と答える。
 平然とした顔で。

 ~更に10分後~

「あああっ! そ、そんなっ! 上からも下からもだなんて……リキ様っ!」
「辛そうだな……。もっと触ってやるぜ。早く良くなるといいな」

 異様な光景だった。
 左手で一の胸を、右手で尻を……。円を描くように優しく撫で回すリキ。

 触っている最中、どうやらリキの指が“クリーンヒット”したようで、一が叫び声をあげる。

「あぁっ! そこは……ダメッ!」
「ここが悪いのか? じゃあ、もっとやってみるな」
「もう、僕……壊れちゃいそうっ!」

 高校の玄関で、俺たちは一体なにをやっているんだろうな。

  ※

 散々、身体を弄ばれた一は、床に腰を下ろす。
 息遣いはまだ激しく、横座りでうっとりとした顔だ。

「リキ様。ありがとうございました……すごく良かったです」
「そうなのか? なんか良く分からないけど、治ったなら安心したぜ!」
 とニカッと白い歯を見せて、親指を立てるリキ先輩。
「ハァハァ……あの、お手洗いは近くにありますか?」
「この廊下の奥にあるぜ」
「わかりました……ちょっと、お借りさせていただきます。コスが汚れてないか、確認を……」

 えぇっ……ウソでしょ?
 汚れを落とすはずが、コスのどこかが汚れたの?
 サキュバスが搾取出来ず、逆に搾り取られたとか……まさかね。
 
 一は、廊下の壁にもたれ掛かりながら、よろよろと奥へと進んでいった。

 
「アハハ! 面白かった☆」
「……」
 ホントに酷いよ。この人。
 人間で遊んでるじゃん。

 とミハイルの言動にドン引きしていると……。
 背後から、視線を感じた。
 振り返ってみると、階段の上。2階からスマホをこちらに向ける少女が一人。
 腐女子のほのかだ。

 鼻から真っ赤な血を垂らしながら、眼鏡を光らせている。
 どうやら、今まで起きた出来事を録画していたようだ。

「ヒヒヒッ。こいつは最高の逸材だわ……リキくん×一くんか。これだから、創作はやめられないのよっ!」

 お前の創作とは、一緒にして欲しくない。