11月も終わりに入る頃。
 そろそろ、一ツ橋高校のスクリーングも後半に入った。
 俺の記憶が正しければ、あと3回ほどで秋学期も終業だ。

 まあ期末試験も控えてはいるが、相変わらずバカな幼稚園レベルだから、この天才ならば、余裕だろう。
 来年に入れば、次の学期までゆっくりと休んでいられると思うと、気が楽になるな。

 なんて、自室で考え込んでいると……。
 学習デスクの上に置いてあったスマホが鳴り出す。
 着信名は、珍しい名前だ。
『一ツ橋高校 事務所』
 以前、宗像先生から電話がかかってきた時に、登録しておいた。

「もしもし?」
『あぁ……新宮かぁ~』
 ろれつの回らない女性。
 その一声で、担任の宗像(むなかた) (らん)先生だと、判明する。
「宗像先生? どうしたんですか?」
『はぁ~ あのなぁ……明日のなぁ……ぐかぁーー』
 会話の途中だと言うのに、寝やがった。
 これ以上、話しても埒が明かないと思った俺は、電話を切る。

 酔いがさめる頃に、またかけてくるだろう……と思って。

 机の上に再度、スマホを置こうと思った瞬間。
 またアイドル声優のYUIKAちゃんの歌声が聞こえてきた。
「チッ……」
 どうせ、また酔っぱらってかけてきたんだろうと、苛立つ。

「もしもしぃ!? 何なんすか!?」
 面倒くさい宗像先生だと思い込んでいたので、口調が荒くなってしまう。
『あ……タッくん。ごめん。忙しかった?』
 電話の向こう側から、YUIKAちゃんに負けないぐらいの可愛らしい声が聞こえたきたので、ビックリした。
 スマホを耳から離して、画面を確認すると、アンナだった。
「わ、悪い! アンナだとは思わなかった……すまん」
『いいよ☆ 誰にだって、間違いはあるもん☆』
「そうか……。で、要件はなんだ?」
『あのね。明日、取材に行かない?』
「え? 取材……?」

 部屋の壁に貼ってあるカレンダーを確認する。
 だが、明日は日曜日。スクリーングだ。
 アンナ自身も、それは知っていると思うのだが……。

「悪いが、明日は高校のスクリーングがあるんだ。別の日じゃダメか?」
『え? ミーシャちゃんから聞いたけど、明日は高校が休みになったって……』
「噓だろ……マジか?」
『マジだよ☆ 担任の先生がギャンブルに負けて、ショックでお酒を飲み過ぎたから、立てないらしいよ☆』
「……」

 だから、泥酔していたのか。
 生徒が一番だったんじゃないの? 宗像先生……。


『だから、取材に行こうよ☆』
「まあ、そういう事なら、構わんが……今回はどこに?」
『アンナね。ずっと考えていたの。タッくんのお父さんが言っていたことを……』
「え? 親父?」
『うん。アンナとタッくんの間に産まれる、赤ちゃんのことを☆』
「へ?」

 俺は聞きなれない言葉を聞いて、頭が真っ白になる。
 一体、何を言っているんだ……アンナは。
 こいつは男だし、俺と“そういうこと”はしてないよ?
 精々がキスとか。パイ揉みぐらいじゃん。


 言葉を失う俺とは対照的に、アンナは嬉しそうに話し続ける。
 
『今度の取材は、赤ちゃんだよ☆ タッくんとアンナの間に生まれる可愛い子ども☆』
「すまん……意味が分からないのだが」
『そこへ行けば、タッくんにも分かるよ☆ 頑張ってね、パパ☆』
「え……」

 脳内がバグりそう。
 俺、なんか新手の詐欺にでもあってない?
 悪い事はしてないと思うけど……。