俺はほのかに受けだと、決めつけられ、ちょっとした放心状態に陥っていた。
それを見た彼女は、満足そうに微笑む。
「まあ、焦らずにじっくりとミハイルくんのために、お尻でも開発しておけば、良いと思うよ♪」
クソが! 他人事だと思って……。
「ほのか……一旦、この話はやめよう。チャイムもなりそうだし……あ、そう言えば、お前に頼みたいことがあったんだ」
担当編集の白金に頼まれた表紙や挿絵用のモデル写真。
俺はそのことをほのかに説明すると、快く承諾してくれた。
誰もいないし、この教室内で写真を撮ることにした。
俺は自身のスマホを手に持って、ほのかにレンズを向ける。
「じゃあ、撮るけど……本当にそのポーズでいいのか?」
「うん! これが一番、私らしいと思うの♪」
「そうかもしれんが……」
満面の笑みで、こちらを向いてくれているのだが……。
両手にたくさんのBLコミックを扇子のように、広げている。
まあ……腐女子だから、個性が出ていいのかな?
数枚、写真を撮り終えると、ちょうどチャイムが鳴った。
俺たちは急いで、スクリーングが行われる二階へと駆け下りる。
教室の引き戸に手をかけた際、ほのかが俺の肩をポンポンと叩く。
振り返ると、彼女が「忘れものだよ」と自身の作品、『ゲイの国 福岡オムニバスクラブ』を二冊、差し出す。
「え、俺に?」
「うん♪ だって、素材に使ったし。琢人くんとミハイルくんの絡み、かなり人気だから。取材協力っことで。二人へのプレゼントかな」
誰がお前の取材に協力したよ……。
勝手に絡めたくせに。
でも、一応受け取っておくか。
「すまんな……」
「気にしないで。ミハイルくんと仲良く読んで、参考にしたら、もっと嬉しいな。あ、もし琢人くんが“開通”したら、教えてね」
この野郎……。
しかし、この作品をミハイルに読ませたら、ヤバいことにならないか?
純真無垢な彼だから、今まで性への知識が少ない。
特にモデルが、俺とミハイル自身だ。
彼が攻めという概念をインプットしてしまえば、愛情表現の1つとして、試したがるかもしらん……。
それだけは、避けたい。
恐怖から、俺はほのかのBLコミックを両方、家に持って帰ることにした。
母さんにでも渡しておこう。
※
授業が始まっても、ずっと頭に入らなかった。
隣りに座るミハイルをチラチラと見つめては、想像してしまう。
こんな可愛い奴が、俺を攻めるだと?
有り得ないだろ……。
だが、考えてみれば、俺は過去に別府温泉で事故とはいえ、リキにお尻処女を奪われたことがある。
このことは、まだミハイルも知らない。
女装したアンナにも言えることだが、彼という人間は、俺との初めてを大切にする奴だ。
それこそ、この前のパイ揉み事件なんか、宿敵であるマリアと入れ替わってまで、復讐の鬼になっちまった……。
じゃあ、リキの事故も同じように憤慨するのではないだろうか?
ちょっと、想像してみよう。
『え……タクト。リキにお尻を掘られたの!? 初めてなのにっ!』
『すまない』
『イヤだっ! オレ以外の奴と初めてをするなんて……そうだ、汚れを落としてあげる!』
そう言って、俺のズボンを無理やり下ろすミハイル。
もちろん、自身が履いているショーパンも脱ぎ捨てる。
重なる肌と肌……。
立ったまま後ろから抱きしめられたが、身長差があるから、幼い子供が親に甘えているように見える。
『や、やめろ。ミハイル! 俺たち男同士のマブダチだろ?』
『関係ないよ! タクトの汚れをちゃんと落とさないと……う~ん、ここからどうするんだろう。オレ、分かんないよぉ……』
イマジネーション、終了。
結果は……めっちゃ可愛かった。
逆に俺の方が興奮してしまう。
その証拠に、股間がパンパンに膨れ上がってしまった。
隣りのミハイルに気づかれないよう、必死に机へと押し付ける。
挙動不審な俺に気がついたのか、彼がこちらに視線を向ける。
「どうしたの? タクト☆ なんか、今日はずっとオレのことばかり見てるけど☆」
何も知らない彼は、エメラルドグリーンの瞳をキラキラと輝かせている。
「い、いや……その俺たち、ずっとマブダチだよな?」
「当たり前じゃん。オレとタクトの邪魔する奴が出てきたら、ぶっ飛ばしてあげる☆」
「それって、リキでもか?」
「う~ん……無いと思うけど。もし、オレとタクトの初めてを奪ったら、許さないかな☆」
「……」
別府温泉の事故は墓場まで持って行こう。