生まれて初めて告白された女の子が、腐女子……。
 言葉にならなかった。
 
 なんなんだ、これ。
 母さんの呪いか?

 好きだと言われて、俺はなんて断れば良いんだ?
 わからん……今までほのかが、俺に惚れる要素がどこにあったというのか。
 それに、以前こいつの好みを聞いたが、特に当てはまるところは、ないはず。


 困惑する俺を無視して、ほのかの告白はまだまだ続く。

「あのね……琢人くん。私ってちょっと変わった女の子じゃない?」
「まあな」
 ちょっとどころじゃない、変態さんだけどな。
「実はもう一人、好きな男の子がいるの……」
「え……?」

 彼女が「男の子」という言葉を発した瞬間。
 一気に血の気が引く。
 俺の周り……いや、ほのかの交友関係で、男の子と言える年の若い雄は一人しか、思いつかない。

「み、ミハイルくんのことも出会った時から……ずっと好きだったの。きっと、一目惚れだと思う」
「は……ハァッ!?」

 思わず、ブチギレてしまった。

「私って罪深い女よね……同時に二人の男の子を好きになるなんて……」
 なんて言いながら、教室の窓に近づき、運動場を眺める。
 こいつ、一体なにを考えていやがるんだ。

 しかし……それよりも、俺は怒っていた。
 別にこいつが誰を好きになろうと構わない。
 二股でも自由にしたら良いだろう、知らんけど。

 俺が一番、許せないのは……。

 気がつくと、俺は叫んでいた。
「ふざけるな! あいつは……俺のミハイルだ! 誰にもやるか!」
 あくまでダチって、意味なんだけど。
 大事な友人がそんな風に軽々しく想われるのは、嫌だったのだと思う。
「琢人くん……。やっぱり、あなたとミハイルくんって、ただならぬ関係だったのね。私が少しも入れないような……濃密な関係」
「へ?」
 怒りも通り越して、アホな声で答えてしまう。
「前々から、思っていたの。二人はいつも一緒だし、出会ってすぐにお弁当とはいえ、“唾液交換”する間柄……だからこそ、好きなの!」
「な、なにが言いたいんだ……ほのか」
 そう問いかけると、彼女はふくよかな胸の上に、手をのせて深呼吸する。
 大きく息を吐きだしたあと、こう言った。

「ごめんなさい! 尊い二人が好きで、めちゃくそ絡めちゃったの!」
「は……?」

  ※

 ほのかの告白というのは、ただの創作活動における話だった。
 つまりBLのことだ。
 俺とミハイルが好き……というのは、あくまでも“素材”として。
 なんて紛らわしい奴だ。

 俺にカミングアウトしたことで、緊張は解け、いつもの彼女に戻る。
 鼻息を荒くして、激しく絡み合った表紙のBLコミックを見せつけてきた。

「これこれ、見てよ! 私が描いた作品、ついに商業デビューしたの!」
「え……ほのかって、確かうちの出版社で預かり扱いだったよな?」
「うんうん。それでね、リキくんの取材とかを元に描いたネームを持って行ったら、編集長の倉石(くらいし)さんが出版してくれたの。作画は他の先生だけどね♪」
「そ、そうか。なんか知らんが、良かったな」

 
 半ば強制的に、ほのかの初商業作品を渡されてしまった。
 タイトルを見れば……。

『ゲイの国 福岡オムニバスクラブ』


 酷い作品名だ。

 パラパラとページをめくって見る。
 ほのかが隣りで、一々説明してくるのがウザい。

「これねぇ。リキくんと仲の良いおじさんから聞いた体験談なんだ♪」
「……」

 確かに言われると、描写が妙に生々しい。
 腐女子の妄想だけでは、描けないリアルを感じる。

 そして、肝心の俺とミハイルの話まで読み飛ばすと……。

 サブタイトルは。
『ヤンキーくんがオタクに恋をした』

 まんまだな……。

 出会いはほぼ、俺とミハイルの間に起きた出来事を忠実に再現していた。
 しかし、違うところがあると言えば、その立場だろう。


『タクトが悪いんだ。オレのことをカワイイとか言うから……』
『だからって、やめてくれ! こ、こんな……』
『いいじゃん。タクトのお尻が良すぎるんだもん。オレ、もう我慢できないよぉ☆』
『あああっ! い、痛いっ! もう12回目だぞ、ミハイルッ!』


「……」

 クソがっ!
 なんで、俺が受けなんだよ!
 百歩譲っても、攻めの方にしろよ……。

 しかも、この漫画のミハイル。
 おてんてんが、デカすぎる……。
 実物はすごく可愛らしいサイズだというのに。妄想だから仕方ないけど。
 まあ、本物を知られたら、危険だから、このままにしておこう。